おかげさまで、「side-b」10、000HIT達成いたしました。
お越しいただいた皆様のお陰です。本当に、有難うございます。
ささやかながら御礼SSです
どうせならテーマを設けてと思ったのですが、

・猫耳
・メイド
・セーラー
・亀甲縛り
・ショタ
・女装
・入れ替わり
・襲い受け

上記候補で悩んだ結果、セーラー+女装+ショタ+襲い受けになりました。文涼です。









DOOR



(うるせーな……何騒いでんだ)
ちっ、と舌打ちし、文太が見上げた居間の天井からは、笑い声がやかましい。
天井の向こう側は拓海の部屋だ。
笑い声が二つ。
拓海と、最近よくこの家に来るようになった啓介のものだ。
昼下がりの店の暇な時間、数少ない楽しみの、時代劇の再放送を見ていた文太は天井の向こうからの喧噪に苛立った。
「テレビが聞こえねえだろーがっ!」
画面では町娘が悪代官にてごめにされていて、いかにもな布団に押し倒されている。白い太股がまぶしい。
リモコンの音量ボタンを上げながら難じると、丸めたチラシを天井に投げつけた。
チラシ玉は軽い音を立てたが二階にいる二人には全く効果がないようで、笑い声はまだ続いている。


「おい、うるせえぞ……もうちっと静かに騒げ」
仕方なく二階に上がり、拓海の部屋の襖を開けて注意した。拓海と啓介はカーペットの上で涙を流して笑い転げている。
「ごめん、オヤジ……ほんっとごめん……あーおかしー……」
「オヤジさんすいません、もーおかしくって……」
文太に謝りながらも、二人は文字通り腹を抱えて笑っている。
「何がそんなにおかしいんだよ」
向かい合った拓海と啓介の間には、小さなアルバムや写真が散乱していた。
「遠征の時さ、写真をさ、啓介さんが、」
笑いすぎて涙目かつ途切れ途切れの声で、拓海が言う。
「ふん」
プロDはホームページとやらを作っていて、そのために遠征時に写真やビデオを撮影している、と拓海や涼介から聞いたことがある。
そのホームページを文太は見たことがないが、この商店街のようなお気楽極楽なものとは違って攻撃的なものらしい。
啓介と拓海の間に散らばった写真に目をやると、どこかの峠の風景写真やハチロクやFDの写真、遠征用のバンの写真がある。
涼介の横顔を撮影したものもある。
ほら、と拓海が何枚かを差し出した。
「これはオフショットだけどさ」
文太は後ろ手に襖を閉めると、どれどれ、と拓海から写真を受けとった。
「……なんだこりゃ」
写真はケンタが変な顔を作ったドアップの写真で、拓海と啓介はこれを見て笑っていたようだ。
「超うける……あーもーだめ……」
「だろ、なぁー」
数枚とも同じ、ケンタが変な顔をしている。
「バカなことで大騒ぎすんじゃねえよ」
ほれ、と文太は拓海に写真を付き返した。
しょうもないことで騒げるのは若さの特権だ。文太にも身に覚えがなくはないが、昼下がりの楽しみを邪魔されるのはいただけない。
「だって超おもしれーし……あ、そうだ、オヤジ。こんなのもあるんだぜ」
受け取った写真を床に置き、ちらばった中から拓海が一枚を拾い上げてほい、と文太に渡した。
「これ、どう?」

「ん……?」

写真の隅には日付が記されていた。
日付は十年前。
写っているのは、涼介だ。面影がある。
ただ、今よりずっと幼い。中学生くらいだろうか、背も低いし線が細い。
「なんだこりゃ……」
文太は再びその言葉を口にした。
写真の涼介は、セーラー服を着ていた。
黒いセーラー服に、赤いリボン。襞スカートを両手でちょんと摘まんで広げ、小首をかしげてにっこりと微笑んでいる。
髪にはピンク色のリボン。
細い脚には、だぼっとしたソックス。
なにか塗ったのか、唇はピンク色だ。
「それ、うちのアニキっすよ」
床に置いたコーラのペットボトルを手に、啓介が笑いながら言う。
「中学の時のガッコーの文化祭で、クラス対抗女装コンテストみたいなのがあったらしくて。うちのアニキがブッチギリで優勝したらしいんですけど。超似合ってるっしょ?」
「…………」
文太は無言でその写真を見つめていた。
「涼介さん顔綺麗ですからねー」
拓海の声がなんだか嫌みったらしく聞こえるのは気のせいだろう。
「啓介さんの時はなかったんですか?」
「あ? オレ? オレはサボったからやんなかったの」
「えー。見たかったなぁ」
「誰が得するんだよ、そんなの!」
「オレが得します」
ちょっと突っ込みを入れたくなるような会話が自分の真下で繰り広げられていたが、文太は手にした写真に見入っていて、その会話は耳に入っていないようだ。
「……ふぅん」
しばらく写真を見つめていた文太だったが、素っ気無い返事とも取れぬ言葉一つでその写真は拓海に返却された。
(あれ?)
予想していた反応と違い、拓海は額にクエスチョンマークを貼り付けた。
(何だよ、折角いい写真見せてやったのに……つまんねーな、オヤジ……)
文太と涼介がどんな関係で何をしているかに気付いている拓海は、2人の関係のスパイスになればと珍しいお節介心で啓介に頼んでこの写真を持ってきてもらったのだが、文太の反応は思いのほか薄かった。
「……昼寝するから、騒ぐなら外行けよ」
文太はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。


(何だよあれ……もうちょっと反応しろよな……)
閉まった襖の向こうで文太が階段を降りる音がする。拓海はチッ、と舌打ちした。


(なんつーモンを見せてくれんだよあいつは……)
天井の向うは静かになった。
テレビの音をギリギリまで落とし、半分に折った座布団を枕に、文太は居間で横になっていた。
頭の中には、さっき見た涼介の十年前の女装写真が焼きついて離れない。
(涼介の十年前か……)
写真、で思い出したが、そういえば文太は涼介の写真を一枚しか持っていない。
別に欲しいと思って手に入れたわけではない。
商店街の飲み会に、どういうわけか涼介がちゃっかり参加し、その時撮られたツーショットが一枚。
涼介はこの商店街の店主達に、すっかり「文太さんのとこの涼ちゃん」で通っているのだ。だから頭数には最初から入っていた。
それは酔った文太に、酔ってもいない涼介が嬉しそうに抱きつくような格好の写真だ。
酒の席でもあり、あの時はみんな随分と酔っ払っていたから、特に疑われもしないショットなのだが。
その写真を涼介も持っていて、大事に大事にしていることは言うまでもない。
「あの写真、オレが大学で使ってるパソコンの壁紙なんですよ」と涼介が楽しそうに言い、「今すぐ壁紙変えろ、変えないとパソコンをぶち壊しにいくぞ!」と文太が怒鳴ったのは余談である。


十年前の涼介。
女装の上にセーラー服。
にっこり微笑んでいた。
脚も首も、頼りないくらい細かった。
(結構……可愛いじゃねーか……)
十年前の、あの格好の涼介が「お父さん」と、声変わりしきらない青い声で呼んでくれるのを想像し、文太の顔が思わずにやける。
回想に対してそんな感想と妄想を付けた後で、文太はハッとして飛び起きた。
「いやいやいやいやいやいやいやいや!!! オレはそういう趣味はねえんだっ!!!」
思わず叫んで首を激しく横に振った。天井の上から「うるせー!」と拓海の声がし、ゴン、とあちらの床、こちらの天井を殴る音がした。

そうだ。
涼介とそういう関係ではあっても、それは……何と言うか、別に男が好きだからとかそういう趣味の領域ではなくて。
下手な言い訳かもしれないが、「涼介だから」で。 ましてや十年前の、女装した中学生の涼介にそういう可愛いだとかいう感情を抱くのは。四十を過ぎた男としては、非常にキケンなものだ。
(……救い様がねえな、オレぁ……)
はぁー、とため息を零し、文太は再び横になった。


「お父さん」
「――ん?」
聞きなれない、青い高い声がして、文太は眠い目をゆっくりと開いた。
「……涼介?」
昼寝をしていた文太が目を覚ますと、涼介が文太を覗き込んでいた。
ただし、涼介といっても、今の涼介ではない。
あの写真の、十年前の……中学生の、女装の、セーラー服の、髪にリボンの涼介だ。
「はい、涼介です」
女の子にしてはハスキーな、男の子にしては高い声で、涼介は返事をした。
今の涼介……文太より十センチも高い涼介よりずっと小さい。
「お前、どうして……」
「どうしてもこうしても、朝起きたら、こうなっちゃったんです」
「朝起きたら……?」
文太が慌てて起き上がると、文太の傍に女の子座りをした中学生くらいの涼介はハァ、とため息をつき、俯いた。
「こんなオレじゃ、お父さん嫌いですよね……」
いや、嫌いとかそういう問題ではないのだが。
「なんでセーラー服なんだよ、お前……」
「だってこれしか着るものがなくて……母の中学の時の制服なんです。これしかなくて……。後は全部、ブカブカだったんです」
だからって髪にリボンはないだろ、と文太は突っ込みたかった。
「ね、お父さん。小さいオレは嫌いですか?」
「……涼介……」
潤んだあどけない瞳が見上げてくる。
薄い唇が開かれて、赤い舌が見え隠れする。
文太の心臓が、ドキドキと跳ねている。
(……なんでよりにもよってこの格好なんだ、涼介……!)
さっき妄想していた通りになってしまった。
幼い女装涼介が、青い声でお父さん、と呼んでくれたのだ。
写真と違い、実際に見るショタ女装セーラー涼介は、本当に可愛いのだ。
これじゃブッチギリで一位なのも頷けるくらいの可愛らしさだ。
それが証拠に、文太の股間が、今現在ちょっとヤバイことになっていた。
「そそそそそれよりお前、嫌いとかそういうことよりまず病院に行けよ……」
思わず目をそらし、文太はどもりながら常識的な解決方法を提案した。
「お前ンち、病院だろうがっ」
「はい、……ウチの父親と母親に、治す方法はないかって聞いたんです」
「ああそうか……行ったのか………」
「そしたら、」
「そしたら?」
涼介は文太の肩に、細い手を置いた。
「……好きな人とエッチすると治るって……」
「――ッ……!」
涼介の白い頬が、ぽっと朱に染まる。


(んなわけあるかぁぁぁぁぁっっっ!!!!)


高橋クリニックは絶対ヤブ医者だ! 
おっさん雑誌の「名医100選」に群馬を代表して載ってたが絶対嘘だ!
文太は確信した。
「嘘だろっ!」
「嘘じゃありません、ほら診断書!」
文太の目の前に一枚のペラい紙が突きつけられる。高橋夫妻の連名の診断書。
「だからお父さん、……いいでしょう?」
「おまっ、ちょ……!」
中学生くらいの癖に、信じられない力で涼介は文太をどすんと押し倒し、跨ってきた。
「やめ……!」
「オレが治らなくてもいいんですか、お父さんっ……」
「……!」
そう言われれば抵抗は出来ない。
だが、開けてはいけない扉を開けてしまいそうで、文太は迷った。もう既に、一枚二枚扉を開けてしまったというのに、この上まだ開けさせるのか。真理の扉を。
「お父さん、お願い……オレを助けてください……」
そんな可愛らしい顔が泣きそうになって縋られると、文太の中でかろうじて保っていた理性が、吹き飛びそうになる。
(涼介……)
涼介は手際よく文太のデニムの股間をくつろげ、文太自身を取り出した。
「あ……お父さんの、もうおっきくなってる……」
文太自身が、堅く勃っていた。
「嬉しい、こんなオレでも欲情してくれたんですね……」
涼介はスカートを捲くり、細く頼りない太腿の間に文太自身を挟んだ。
「お前っ……!」
「今のオレ、折角お肌がピチピチしてるんですから、こういうので楽しみましょうよ……ね?」
ね、じゃねえ、と突っ込む余裕などない。
その柔らかな太腿の感触。
後ろに手を付いたセーラー服女装ショタ涼介の、なま白い太腿の間に挟まれている文太自身はみるみる硬度を増した。
「んっ、……熱い、お父さんっ……」
涼介が懸命に太腿を動かし、文太を気持ちよくさせようと頑張っている。
「涼介っ……」
柔らかな太腿の感触は、中に比べれば締め付けはたいしたことはないが、視覚的感覚的エロスでは中と同等かもしれない。
「あ、お父さん……お父さん……!」
はぁはぁと息を荒くし、涼介は文太の上で揺れている。青い声が文太を呼ぶ。
髪のリボンが乱れ、汗で髪が張り付く。
「涼介……!」
文太は湧き上がる衝動に、そっと涼介のセーラーのリボンに手を掛けた。しゅる、とそれが外れる。
ボタンをぷつんぷつんと外していく。
「あ、……」
セーラーの下は素肌だ。
やはり細い。成長しきらない青い身体。小さなへそと、薄い胸の頂点には薄ピンク色の乳首が。
それを目にした瞬間、文太の理性が吹っ飛び……ついでに意識も吹っ飛んだ。




「……お父さん?」
揺り動かされ、文太は目覚めた。
文太を起こした声は、艶のある低い声だ。
「……涼介……か……」
「こんなところで昼寝してたら、風邪を引きますよ」
覗き込んでいたのは、コートを着た涼介だった。それも、24歳の、大人の。普通の、涼介だ。
「ああ……そうだな」
文太は起き上がると、うん、と伸びをした。
「……うなされてましたけど……どうしました? お父さん」
「あ?」
訊ねられ、首をコキコキ鳴らしながら文太は夢の内容を反芻する。
「…………」
まさか中学生くらいの女装涼介とあんなことをする夢でしたとは言えず、文太は押し黙った。
「さっき、藤原と啓介と坂の下ですれ違ったんです。ご飯食べに行くそうです」
「ああ、出かけたのか……あの2人」
「お父さんがうなされてるって言ってたから、慌てて来てみたんですけど……」
「ちょっと、夢見悪くてな……」
文太は言葉を濁した。
元凶は、拓海が見せたあの女装写真だ。
だがそれを言えるわけもない。
「……涼介」
「はい?」
「……上、な」
文太は珍しく、涼介の頬に自分から触れた。
「布団敷いて来い。オレぁシャッター閉めとく」
「……!」
涼介の頬が、みるみる赤くなっていく。文太から求められるなんて、滅多にないことだ。
「はっ、はいっ!」
慌てて二階に駆け上がる、180越えの涼介の後姿を見送りながら、文太は心の底からほっとした。
(あぶねー……夢の中とはいえ危うかったなオレ……)
もう少しでショタ女装涼介と一線を越えるところだったのだ。文太はほっと息を付き、店を仕舞うべく立ち上がった。
(十年前に会わなくて良かった……)
会っていたらきっと、違う扉を開いていたかもしれない……文太は店のシャッターと扉を閉めながら思った。


そして狭い家は密室になり、大人の涼介が文太に抱かれる。
馴染んだ涼介の低い喘ぎ声に、大人の男の肌の感触に。
文太がほっとしたのを、涼介は気付いては居なかった。





(終)





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