|
※啓介→拓海 啓介←ケンタ 京一×拓海前提の啓介×ケンタ話です。犯罪あり。
色々読後感の悪い話ですが、それでもいいという方のみどうぞ。
↓
↓
↓
↓
「藤原っ、藤原ぁっ……!」
「あっ、け、すけさん、っ…!」
オレの薄い尻の肉を掴む、啓介さんの大きな手。後ろから打ち付けられる啓介さん自身。
泣いてるみたいな啓介さんの声。
「くっそ、出、る……ッ!」
ア、とうめくような声の後、体内に吐き出される熱い熱い啓介さんの欲の塊。
「ァ……あああっ……オレも……です、っ」
受け止めるオレは、啓介さんがオレでイったというその事実だけイってしまい、白濁はホテルの糊の利いたシーツを汚した。
「……あーもーサイコー……お前の中」
オレの背中にバタンと倒れ込んだ啓介さんが、荒い息を整えもせずに言ってくれた。
「あ、ありがとうございますっ」
最高、なんて言われると。
その言葉だけでまたイきそうになる。
でも、啓介さんはオレの名前ではない人間の名を呼ぶ。オレを抱く時。
さっきの最高、もきっとオレではない人間に向けられたもの。
ケンタじゃなく、藤原、と呼ぶ。
身代わりでもよかったんだ。啓介さんに抱かれるなら。
『アイツ、ホモだけは絶対受け付けないって言うからさ、お前も聞いたろ? 刺すとか言うし……オレ、アイツにだけは嫌われたくねーんだよ……お前、聞いた話だけどなんか男もイケるってゆーから……アイツの身代わりだけど、駄目か? 必要なら金、やるからさ……』
あの日、啓介さんに言われた言葉にちょっと戸惑った振りをした後、おずおずと頷いて、啓介さんがほっとした顔で『じゃあ頼むな』と俺の肩を叩いてくれた時。
オレは内心、計画の成功を喜んでいた。
なにそれヒドい話、と啓介さんも藤原も車も何も知らないダチには言われたけれど、オレはそれでもよかった。
啓介さんがオレを抱いてくれるなら。啓介さんがオレの身体で感じてくれるなら。
プラクティスの休憩時間、藤原はボーっと口をちょっと開けてガードレールに凭れかかって座り込んでいた。
最近、オレは藤原には優しいんだ。お前ら仲いいな、と涼介さんや史浩さんにもよく言われる。
オレも藤原も否定しない。そうなんですよオレらプロDのお子様コンビ結成しちゃったんです、なんて言っちゃったりして。
「藤原。ほら、飲めよ」
藤原に温かい缶コーヒーを渡してやり、オレは藤原の隣に座った。
「あ、ありがとうございます。ケンタさん」
「いいんだよ、別に……お前のおかげでイイ思いしてるから」
つぶやくように言うと、藤原はビクっとはねた。
「心配しなくても、黙っといてやってるからな?」
「……はい」
車に乗るとあんなにキレた走りをする癖に、藤原は怯えたいじめられっ子の様におどおどしながら下を向いた。
オレらはお子様コンビなんかじゃない。立派な”共犯者”。
啓介さんが藤原を好きだっていうのは、プロDが始まる前から知ってた。
初めての遠征前、二人で飲んだ時、啓介さんがぽつりと打ち明けてくれた。
『男同士とかおかしいよな、言えねーよな……』
啓介さんはとても苦しそうで……オレはいたたまれなかった。
オレだったら喜んで身体を開くのに、どうして藤原なんだ、って。
いつもボーっとして何考えてるか分からなくて気の利かない無口な藤原なんだ、って。
啓介さんに選ばれなかったことが悔しくて、オレは遠征の時も打ち合わせの時も藤原に必要以上に辛く当たったりした。
悶々としていたある日、藤原が男と抱き合っているのを見た。
よりにもよって、繁華街のそういうホテルの前で堂々と。
しかも相手はエンペラーの須藤。オレは裸眼視力1.5の我が目を疑った。
その後、藤原はまるで女みたいに須藤の腕にしがみついて二人でホテルに入っていった。
よりによって涼介さんとこの世で一番仲の悪い走り屋と、藤原はそういう仲だった。
『マジかよ……』
驚きの後、頭の中で”計画”が勝手に湧いてきた。
二時間待って、二人が出てきたところを物陰からケータイで撮った。
プロDじゃ絶対見せない嬉しそうな顔で、須藤と手を繋いだ藤原は夜の闇に消えていった。
その直後、史浩さんの住むアパートに空き巣が入った。
金目のものは無くならなかったけれどプロDの、それもセッティングやチューンや藤原のエンジンに関する極秘資料のいくつかが無くなっていて、涼介さんや史浩さんはやたらぴりぴりしていた。
すぐさまハチロクとFDは突貫で大幅なチューンアップを施され、啓介さんは慣れない感覚に戸惑っていた。
資料の流出はプロDの手の内の流出とイコールになる。それは敗北に直結しかねない。
関東中の峠で勝利を収め続けるこのチームを潰したい走り屋は沢山いる。走り屋なんて出る杭の打ち合いみたいなもんなんだ。
空き巣の前から、プラクティスでの嫌がらせは頻発していて、自宅に鍵の掛かったガレージを持たない藤原のハチロクは常時松本さんの工場預かりになっていた。
だから峠を降りてからの私生活、特に他の走り屋との交流にはくれぐれも気をつけるようにと涼介さんは口癖の様に言っていた。
涼介さんが大丈夫だと太鼓判を押したヤツ(例えば妙義の中里とか秋名スピードスターズとか)以外の他の走り屋とは、誘われても飲みに行ったりしないようにと史浩さんは口を酸っぱくして言ってた。その"以外"に、当たり前だけどエンペラーは入っていた。っつか、エンペラーなんかそれを通り越してブラックリスト入りだった。
ケータイで撮った例の写メを藤原に見せた時。アイツの顔は笑えるくらい蒼白だった。
『嘘……なんで……』
その目は潤んで声は震えていた。
『なんでって、そりゃこっちの台詞だぜ? せめて栃木でやれって話だよ。お前こそ大体なんで前橋なんかで遊ぶんだよ、馬鹿じゃねーのお前ら!……これ涼介さんが知ったら、どうなるだろうな?』
意地悪く笑いながら見せ付けるようにシェルをばちんと畳んだ。
藤原は唇を噛んだ。
『もし何か不穏なコトがあったら、たとえお前だろうと啓介さんだろうとプロDのドライバーから外すこともありうるって……こないだのミーティングで言ってたよな、涼介さんは!!』
これは涼介さんの走り屋人生の集大成のためのプロジェクトだ。
啓介さんも藤原も、勿論オレらも手駒でしかない。手駒になる代わりに、ダブルエースは実績と名声を得、将来の夢だと口を揃えるプロへの道が近くなる。
それを外されることは、プロへの道が遠のくこと。群馬で涼介さんに嫌われて走ることなんて、多分無理な話だ。
『他の走り屋……それも、エンペラーの須藤と会っててそういう仲とか……もしかして史浩さんちの空き巣って須藤の指示でお前がやった?』
『ちっ……違います! オレじゃないし京一はそんな人じゃ……!』
『へぇ、京一って呼び捨てなんだ』
藤原の頬が一瞬で真っ赤になった。
十近く年上の男を呼び捨てって、一体どんだけラブいんだって話だ。
訊けば藤原と須藤はいろは坂でやりあった直後からの付き合いで、もう八ヶ月近いとかお互い本気の付き合いだとか。いつか外国で式だけでも挙げたいとか、涼介さんが聞いたらひっくり返って、啓介さんが聞いたら失禁しそうな話がわんさか出てきた。
『……でもさ。もしオレがコレを涼介さんに見せたら、絶対疑われるぜお前。Dのドライバー、外されたくないだろ?』
『そんな……』
『今は兎も角、須藤が勝つためにどんなあくどいコトしてきたか、お前は知らないから言うんだろうけど』
『…………』
『須藤と別れるか?』
『そんなの……考えられませんっ』
『――だろ。そういうと思ってたよ。じゃ、黙っててやるよ、藤原。その代わり……』
オレが提示した条件は簡単だった。
藤原に気のある啓介さんの前で、ホモはやだとか軽蔑するとか言えってこと。
それと、オレが男と寝れるってことを、別のルートで噂を流せってこと。
それが出来ればこのことはバラさないでおいてやる。
藤原は啓介さんが自分に気があることを薄々気付いていて、でも須藤とのことがあるからもしコクられたらどうしようか悩んでた、とオレに打ち明けてくれた。
オレは啓介さんを好きだったことを藤原に打ち明けた。
お互いの本音をさらけ出したその瞬間、オレたちは共犯者になった。
その後は笑えるくらいあっさりとコトが運んだ。
プロDの飲み会で、藤原がオレが振った話の流れを上手く掴んで『オレはホモなんかヤです、襲われたら相手刺してオレも死にます! っつか男相手なんて絶対無理です! 無理無理無理!』とわざわざ啓介さんの隣に座って声高に宣言した。
その時の啓介さんの顔といったら。これは実質、コクる前に藤原に振られたも同然だ。
マジで今にも泣き出しそうで、少し後にトイレに駆け込んでいった。
洗面所で顔を洗ってた、と史浩さんは言ってたから、きっと泣いてたんだな。
別ルートはレッドサンズの二軍。藤原がどうやったのかはわからないけど、二軍の様子を見にいった啓介さんに『ケンタさんは男と寝れるらしいですよ』と話がうまく伝わったらしい。
啓介さんにとって、藤原に振られたショックと行き場のない欲を吐き出すのに、いつも啓介さん啓介さんてくっついてる、オレくらい都合のいいヤツはないだろう。
『なあ、ケンタ。ちょっといいか?』
『はい?』
来たよ。
来た来た来た。
啓介さんに呼び出されたとき、オレはどんなニヤけたツラをしてたんだろう。
誰にも言ってないコトが一つだけある。
空き巣の犯人。
あれ、オレ。
史浩さんちのアパートは学生向けの古いトコで、窓の一つが外からガラス叩けば鍵が簡単に開くんだ。史浩さん自身気付いてなかったみたいで、実況見分で警察に指摘されて初めて気付いたっぽい。
オレ、知ってたんだ。前に史浩さんちで打ち合わせした時忘れ物して、取りに戻ったら史浩さん寝てて。ダメもとで窓叩いたら簡単に鍵が開いたんだ。
盗んだ資料? 大学でシュレッダーに掛けた。
「んじゃ、コレ足代……」
まだベッドに横たわってだるい身体を持て余すオレに、先に服を着た啓介さんが5千円札を渡そうとする。
「いいですよ別に……」
やんわりと断ると、啓介さんは困ったような顔をした。
「でも、お前バイト都合つけんの大変なんだろ? ……こういうのはキモチだからさ」
そう言って、啓介さんはオレの顔の上に札を置いて部屋を出て行く。
「じゃあな、また」
「……はい」
今日も一度もケンタ、とは呼んでくれなかった。
胸がツキンと痛むのは、きっと気のせい。
「で、そっちはどうなんだよ。須藤とはヨロシクやってんだろ?」
声を潜めて訊くと、藤原は顔をこわばらせたままコクンと頷く。
言わないでやってるんだ、聞く権利くらいあるだろう。藤原も実のところ誰かにノロけたいっぽいし。
「こないだ会ったら、プロD終わったら……東京で一緒に住もうって言われて……京一、春から東京に転勤になるみたいなんです」
「へぇー、同棲ってやつ? すげーじゃん。プロD終わっちまえばバレても大丈夫だよな、昨日からですって言えばいいんだし」
「そうですね。京一もそう言ってました。……同棲、になるんですよね……京一、お父さんの会社をいよいよ継ぐことになるみたいで」
「須藤ってでっかい土建屋のボンボンだっけ? 東京にも会社あんの?」
「本社が東京なんですよ。で、部屋はもう借りたみいで……来週、一緒に見に行くんですけど」
「何処に?」
「お台場って言ってました」
「すっげー。皇帝様はやることが違うな」
「…………ですね」
藤原が困ったように小さく笑った。
「ケンタさんは……?」
遠くに停めたバンの前にいる涼介さんや史浩さんがこっちを見ている。
きっとお子様コンビは今夜も仲がいいな、なんて話してるんだろうな。
啓介さんのFDが走り込みから帰って来た。独特のエキゾーストが近づいてくる。
「オレもいい感じ……昨夜も三回ヤったんだ、啓介さんと」
お子様コンビどころか。
「な、藤原……共犯者だよな、オレらって」
オレは藤原の耳元で囁いた。
藤原はコクン、とまた頷いた。
そして二人でくすっと笑った。
共犯者
(終)
|
home