コンビニ邂逅
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高二の冬休みの最後の日は、イツキと遊んで過ごした。
帰りに一人で駅前のコンビニに入った。
寒い夜だったから、あんまんでも買おうかな、と思って。
帰宅時間とぶつかって客は多かった。まぁ駅前のコンビニだからいつものことだけど。
レジに並ぶ列の最後に立ったら、前に立っている人の背の高さが気になって、ふと見上げてみた。
その人は男の人で、オレよりちょっと年上くらい。何が気になったのか一瞬後ろを向いて、その時に顔が見え、オレははっとした。
――すっげー……カッコいい……。
一瞬、芸能人かと思った。っていうかそうかも。
すらっとしててさらさらの黒髪で、顔のパーツが全部整ってる。視線を上から下へと移動させたら、脚も長いし。着てるもののセンスはちょっとアレだけど、革靴なんかピカピカだし。腕時計高そうだし。
――何コレ。神様って不平等。
男前で背も高いって、いるところにはいるもんだ。おまけに多分だけど、金持ちだ。きっと。
うっわ、なんか羨ましい。
「いらっしゃいませ」
「ピザまん一つ」
その人は順番が来ると、低くてやっぱりかっこいい声でピザまんを注文して、缶コーヒーをコトンとレジカウンターに置いた。
少し見えた横顔。
やっぱり、かっこよかった。
「ありがとうございましたー」
支払いを済ませ、その人は小さなレジ袋を手にした。
レジの女の子の愛想がやたら良かったのは気のせいじゃない。
「涼介、早くしろよ」
コンビニのドアが開いて、友人らしき人が手招きした。
「ああ、すまない。皆待ってるのか?」
涼介、と呼ばれたその人は、急ぎ足でコンビニを出た。
涼介っていうのか……名前までカッコいい。
涼介さんはコンビニの前に停まっていた白いスポーツカーに乗り込んだ。助手席じゃなく運転席。
特徴のあるエンジン音をさせて、そのクルマは走り去った。
――顔も名前もカッコよくて声も良くて金持ちっぽくてスポーツカーに乗ってるって。世の中どうなってんだか。
「……いらっしゃいませ」
さっきより明らかにテンションダウンしたレジの女の子が、順番が来たオレにマニュアルスマイルで対応する。
「えっと。ピザまんください。一つ」
路線変更。
いや、別に。
特に深い意味はないんだけど。
何となく、ピザまんにしたかった。
あのカッコいい人の真似を、したかった。
(終)
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