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山に響く二台のRのエキゾーストとスキール音。ギャラリーの歓声。
今夜のこの妙義山の主役である筈のそれらは、涼介の荒い息の彼方にあり、熱気と湿気の篭ったこの山に重く響いていた。
「……ぅ……、……」
文太の後について、ギャラリーのいる方向とは逆の森の中に足を進めていた。
距離にすれば百メートルあるかないかだが、涼介には何キロもあるほど遠くに感じられた。
足取りは重く、引きずるようだった。
吐く息は喘ぎで、身動き一つが性的な刺激を、興奮を齎してしまう。
後孔はもう蕩け、自身ははちきれる瞬間を待ち、乳首はとどめの刺激を欲しがっていた。
足元に生い茂る草を踏みしめながら、文太が奥へ奥へと歩いていく。涼介はその後を必死の思いで付いて行った。
ふと振り返れば、ギャラリーたちはおろか、駐車場さえ木立の向こうだった――。
「手、付け」
かなり奥まで歩いて、文太が立ち止まった。
「え、」
涼介も立ち止まって顔を上げると、文太の目の前に太い幹を持つ木があった。
「これに手ェ付けってんだ」
文太が顔だけ振り返り、手でその木の幹を叩いた。
「わ……わかりました……」
頷いて、涼介はその通り……文太の脇を通り過ぎ、幹の前に立って手を付いた。
「じっとしてろ」
優しさの奥に何かを秘めたような文太の声がしたかと思うと――文太が涼介に覆い被さった。
「あ……」
文太の手が伸び、涼介のパーカーのジッパーを開いた。一気に、ジャッと下ろした。
「ふぅん……」
肩口から覗き込んでくる視線が痛かった。
「う……」
「本当に効果があるんだな」
顎をなでながら、感心したように文太が呟いた。視線の先にあるのは、クリームを塗られた涼介の乳首。クリームで濡れ、痛いほど尖ってジンジンと疼く2つのピンク色だ。女の胸の様にツンと尖り、その形を露わにしている光景は、クリームの効果を視覚的に確かなものにしている。
「そうか……成る程な。眉唾じゃあねぇんだな」
納得したのか、文太の手は次にカーゴに掛かり、ベルトを外しボタンを、ジッパーを緩め……一気に膝まで下ろした。
「……おとうさ……ッ……」
思わず叫びかけた、涼介の下半身が夜気に触れる。むっとした空気に。
「……ふん、」
呆れと嘲笑を含んだ、文太の短い言葉。クッ、と勃起した涼介自身が、その言葉に反応してぴん、と跳ねた。
涼介自身に被せたコンドームの先端には先走りの証、半透明の体液が溜まり、自身はいつもの――達する直前の堅さと角度だ。
静かな振動音が、形のいい、白い尻の間から聞こえている。その、尻の間から垂れたピンク色のコードの先に付いた、可愛らしいパンダのキーホルダー。それが無邪気に揺れた。
「充分楽しんでるじゃねぇか……なぁ、涼介」
文太の手が、キーホルダーをくい、と引っ張り、ローターを涼介の中から一気に引き抜いた。
「あぁぁぁ……ッ!!!!」
散々、涼介の中を蹂躙したものが急になくなった。ズズ、と穴の皺を広げ、ピンク色の卵形はぬめったローションと体液を纏って外に出された。ちゅ、と水音を伴って。
――後に残るのは、どうしようもない喪失感。
「ああ……っ……ふぁ……ああ、」
膝に力が入らなくなり――涼介はその場に膝をついた。
「そんなに良かったのか、コレが」
文太はポケットの中のリモコンのボタンを押し、ローターのスイッチを漸く切った。ぽい、と卵型とリモコンを、草むらへ投げ捨てた。
「涼介」
幹に額を押し当て、膝をついている涼介の肩を、文太が押した。
無様な格好のまま、涼介は草むらに仰向けに押し倒された。
「……は――あ……あ、……ッ」
後孔の喪失感と、もう限界を告げようとしている乳首と自身。口元からは涎が垂れている。
自分を襲う何もかもに耐え切れず、半泣きになっている涼介の顔は……文太のサディズムを刺激するのには充分すぎた。
「おと……!」
涼介の上に、文太が圧し掛かった。
文太は己を呼ぼうとする涼介の唇を唇で塞ぎ、尖った2つの乳首を堅い指できつく抓った。
「――!!!!」
涼介の身体が仰け反った。こみ上げてくるものを抑えていた堰は、プツリと切られた。
(――ダメだ……もう……イく、イく……!!!)
二人の間で主張していた涼介自身が激しく脈打った。
亀頭の先から白濁がドクドクと放出され、コンドームの精液溜まりを満たした。
「ふ……ぁあ……」
銀糸を引いて唇が離れた。
余韻に震える涼介の身体が、ヒクッと跳ねた。情けない声を上げて。
吐き出したものの重みに耐えかねたコンドームが、ずるりと抜けて草むらに落ちた。
「乳首だけでイきやがって、このド淫乱……」
涼介の上に影を作る文太が、嘲るように言った。
「――妬かせる様なモンで感じるんじゃねーよ」
草むらに放り投げたローターに一瞥をくれると、文太は涼介にまた口付けた。
――中里の32が抜いたぞ、という歓声に混じり、涼介の泣き声にしか聞こえない喘ぎが、二人しかいない森に響いた。
喪失感に飢えた涼介の後孔は、文太自身が満たした。
まだ足りないと尖る乳首は、文太の口が吸い、甘く噛み、転がした。
そのまま、草むらの上で涼介はようやく文太に抱かれた。
――バトルは中里の勝利で終わった。
34の勝利、中里の敗北というのがバトル前のギャラリー達の予想だった。久々の大一番に妙義の山は沸いた。このバトルに敗北すれば、ナイトキッズは名前から妙義の看板を下ろさなくてはいけないのではないかと――かつての涼介が、赤城をチーム名に掲げる古参にバトルを挑んで勝利し、決まり悪くなった相手が赤城をチーム名から外したように――言われていたのだ。
バトルが終わった後も妙義山は騒がしかった。
今夜の主役である中里を囲み、大勝利を喜ぶナイトキッズの面々が駐車場を陣取り、興奮の一戦に満足して峠から去るギャラリーの車が下りで渋滞していた。
「やっぱりお前はナイトキッズのリーダーだよ、毅っ!」
「痛いっつってんだろ、離せ慎吾っ」
喜びが過ぎた庄司にヘッドロックをかけられて痛がっている中里を、チームメイト達が笑いながら囲んでいる。
「……いいバトルだったな、中里」
透き通るような声が、中里にかけられた。
「高橋涼介!」
チームメイトの誰かが言い、中里が顔を上げた。庄司も手を止めて同じ方を見た。
「あ、高橋」
「やあ。久し振りだな」
少し頬を赤くした涼介が、仕立てのいい白いシャツと濃い色のデニムという定番の格好で立っていた。
「珍しいな、妙義に来るなんて……今来たのか?」
「いや、ずっといたぜ。最初から」
「え、マジで?」
庄司が驚いた。
「ああ」
肩を竦めた涼介は、ナイトキッズのメンバーたちからの羨望と驚きの視線を浴びた。
「そうだったのか。悪いな、全然気付かなかった」
「いいや、騒がれるのは後でいいと思って、あまり目立たない所でいたからな」
赤城の白い彗星の登場に、その場が違う意味で沸いた。
「わ、マジ高橋涼介じゃん」
「あいつが峠に出てくるなんて久し振りじゃねえか」
残っていたギャラリー達から声が上がる。引退後、涼介が峠に顔を出すことなど滅多になかったのだ。
駐車場の隅に停めたインプレッサの中、文太はタバコを咥えたまま遠くのひと巻き……涼介のいる辺りを見ていた。
着替えてぐしゃぐしゃになった、さっきまで涼介が着ていた服が後部座席に丸まっている。
自分の下で泣き叫んで喘いでいた涼介は何処へやら、いつもの「赤城の白い彗星」然として、中里や庄司と話している。
「…………切り替えの早いヤツだな……」
文太はふと、ドアートリムに片手を差し入れ、指先に当たったものを掴んでカチ・とスイッチを入れた。
「……あ、ッ」
今日のバトルについての感想を述べていた涼介が、小さく声を上げ、軽くよろめいた。
「どうした? 高橋」
中里が涼介の顔を覗き込んだ。
「顔、赤いぞ」
「……いや、なんでもない……んだ。それで、セッティングだが……」
「ああ、以前お前の弟とやったときより、比重を――」
(お父さん……)
勝利に熱っぽく語る中里に相槌を打ちながら、涼介は後孔に再び入れられたあのローターの、さっきよりは大人しめの振動に再び身体の奥から熱が湧き上がるのを感じていた。
(いけない、また……オレ……)
じわじわと先ほど醒めたばかりの熱が、また。
ちらりと振り返れば、青いインプレッサが駐車場の片隅で、涼介を待っていた。
おいで、早く帰って来い、と――手招きするように。
峠で 4
(完)
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