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哀願、という言葉がぴったりなほど、彼は泣きながら文太に許しを乞うた。
お願いです、お願いですからどうかもう止めて下さい――と。
文太はその願いを聞き入れなかった。
闇は、冷たい。
温度も、そして態度も。
泣き叫ぶ涼介の顔も、それを赦さない文太の顔も互いに見せてはくれない。
哀願の言葉は闇に溶ける。行く宛の無いそれは、たった今にはもうなかったことにされる。
文太に後ろから突かれながら、涼介はもうどうにかなってしまいそうだった。いや、なっていたのかもしれない。
おかしくなってしまう、だからもう、やめてくださいと。
オレが悪かったんです、ごめんなさい、お父さん、と。
思いつく限りの言葉で、文太にこんなことは止めて欲しいと訴えた。
文太の耳にそれは入っているはずなのに、しかし返事はなかった。
ただ、狂ったような文太の律動は止まらない。
涼介の細い腰を掴む右手は、頭を枕へ押しつける左手は強かった。
そんなに欲しいのかよ。
この部屋が闇になる前、文太はそう言った。
部屋の真ん中にいた涼介に向かって。
そしてこの部屋を闇にして、涼介を押し倒して着ているものを全て剥ぎ取って。
明日もまた大学なのに、という涼介を、酷く抱いた。
闇になる前、文太がいない隙に、涼介はこの部屋――文太の部屋に入った。
部屋には、部屋の主が無造作に脱ぎ捨てた服があった。
セックスのお預けが三日目にもなっていた。だから、つい……出来心で。
涼介はその服を手にして、顔を埋めて匂いをかぎながら、片手でごそごそと自分の股間を弄ろうとしていた。
そこへ文太が戻ってきた。
そんなに欲しいのかよ。
自分の抜け殻で自慰をしようとする涼介に、文太は望むものを与えたまで。
ごめんなさい、もう、しませんから。
頬を涙で濡らす涼介の分身は、言葉とは裏腹に堅く勃ち上がり、意地汚い先走りをとろとろと垂らしていた。
だから、無理矢理なんて、やめてください。
涼介が何百回目かの哀願の言葉を口にした途端、文太の分身が、涼介の『中』で一番感じる場所を掠めた。
あ、あ、と。
闇の中、涼介は感じたまま、啼き声を上げた。
黒に染まる闇の中、涼介の白濁が弧を描いた。
文太もまた、涼介の耳元で小さく啼いた。
その瞬間、二人の存在そのものが――闇に、溶けた。
闇ニ啼ク
(終)
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