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拓海が家を出て、もう何年目かの年末だ。
隣にいる、はたまた差し向かう相手が変わっただけで、年の瀬の風景はあの頃とは変わらない。年末年始、商店街は慌しい。
ご多分に漏れず文太の豆腐屋も忙しく、大晦日の早仕舞いは予定だけで、結局いつもと変わらぬ時間にシャッターを下ろした。
三日までは毎朝のホテルへの配達もなく、他の店同様に正月休みを堪能できる。
ただ、四日にはホテルで何処かの会社の大宴会が予定されているようで、仕事始めは大荷物が決定していた。
「そろそろいいと思いますよ」
居間のコタツの上、二人の間でグツグツと煮えるすき焼きを菜箸で整えながら、涼介が言う。
「もうちょっとじゃねえのか。白菜煮えてねえだろ」
「そうですか?」
「ホラ、この辺りまだ硬そうだぞ」
待ちくたびれた文太の手には、三本目の缶ビールが握られていた。
付けっ放しのテレビは毎年大晦日にやっているお笑い番組。涼介がちらちら見ては、クスクス笑っている。文太も釣られて見て、小さく笑う。
文太には、いつの間にか当たり前になっている、涼介との時間。今年もゆっくりと、過ぎていく。
「明日、早いのか」
「いつもどおりですよ」
年末休みを確保する代わりに、涼介は後輩の医師に年始休みを譲っていた。恋人と初詣に行きたいという後輩と、年末を大切な人と過ごしたいという涼介が申し合わせて上手く休みをやりくりしていた。大晦日の今日が休みになったかわりに、元日早々、涼介には仕事が待っている。
「ご苦労なこった」
「仕事ですから」
涼介は微笑んだ。
壁には、白衣がアイロンを当てられ明日の出番を待っていた。
「……あの、お父さん」
「ん?」
「……明日、送って行って下さいませんか」
茶碗に目線を落としたまま、声のトーンを落としたおねだりが、湯気の向こうから投げかけられた。
「あ?」
思わぬおねだりに、文太は口を開けたままで返事をしてしまった。
行儀悪く箸の先を噛んで、おねだりをした涼介は上目遣いで文太を見てみた。
「正月早々、前橋くんだりまでかァ?」
面倒臭そうに言うとビールを煽り、ため息と共に空っぽになった缶を机にとん、と置いた。
(やっぱり駄目か、折角の休みだし……)
文太と少しでも一緒に居たいから、と思ってのおねだりだった。
「すみません、今のはなしで……」
「道も空いてるだろうし、前橋くらいの距離なら走り初めにゃ悪くはねぇだろうな」
「あ、」
取り消そうとしたら、OKをもらえた。
「その代わり、ちゃんと起こせよ?」
四本目のプルトップを開けながら、文太はにやり、と笑った。
番組の終わりを待たず、すき焼きと文太の晩酌が終わった。
片付けもそこそこに、居間の明かりは消され、二階の四畳半の明かりが灯る。
「お父さん、お酒臭い……」
珍しく自分から覆い被さってくる文太に、涼介は照れ隠しに顔を背けた。
「結構呑んだからな……ま、ビールなんざションベンで全部出ちまうから平気だ」
「呑みすぎは駄目……っ、」
早くも分身を文太に握りこまれ、涼介の腰が跳ねた。
「あ、っ……」
目を見開いて、仰け反った。文太の唇が、涼介の喘ぎを堰き止める。
「ん、んん――…」
「……ッ、」
「っ、あ……や、」
文太の唇から逃れた涼介が、嫌々をするように首を横に振った。
「嫌がんな」
握りこんだものをきつく擦りあげながら、文太は涼介の耳朶を齧り、聴覚の奥へと酒臭い息と熱い舌を絡めていく。
「年の瀬くらい、可愛がってやろうってんだ……」
「あ、あぁ……」
「だから、じっとしてろ」
面倒臭そうに抱いてくれることの方が多い文太が、珍しく可愛がってくれる。
それが嬉しくて、こそばゆくて、涼介はもう、溺れそうだった。
「あ、あっ」
膝下に手を入れられ、掬われた脚を肩に担ぎ上げられて。
「朝早いんだからとっとと終わらせちまうぞ……」
何よりも熱いものが、涼介の入り口に押し当てられ、遠慮無しに一気に奥まで突き進んできた。
今年最後なんだから可愛い顔でイけよ、と。
耳を舐められ、貫かれ、ついでに扱かれながら囁かれて。
来年も一杯抱いてやるから、と、ずるい条件を突きつけられて。
抗える筈など、ない。
文太に言われるがまま、涼介は声を上げ、はしたない顔で、文太自身を下の口で咥え込んだまま、文太に扱かれ、今年最後の絶頂を迎えた。
今年最後の「大好きです」を文太に言う間もなく、涼介はそのまま意識を手放し、眠りについた。
年越しで沢山のキスが顔じゅうに、身体じゅうに降って来たのを、知ることもなく。
今年最後の
(終)
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