二人の、ある夜の出来事(拓涼)
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三十分前まで、二人分の嬌声と熱と呻き、そして欲を具現化した行為が齎す快楽が支配していたベッドの上。
涼介は一人、仰向けで目を閉じていた。
事後の気だるさが涼介の全身を支配し、すぐシャワーを浴びる気にはなれなかった。
「涼介さん、どうぞ……」
涼介の上に影を作り、先にシャワーを浴びた拓海が差し出したのは、ジュースと言ってもいいくらいの甘いカクテルの缶。
「ん、……ああ」
ゆっくりと瞼を開いて汗ばんだ腕を伸ばし、缶を受け取った。冷たさが心地良かった。
「疲れました?」
「……そりゃあ、な。お前は元気だな……藤原」
「そうですか? フツー、ですよ」
拓海はにべもなく笑った。
涼介を疲れさせたのは、拓海だ。
昨日海外遠征から戻ってくるなり、仕事上がりの涼介に会いに来て、そのまま攫って。
何ヶ月ぶりだからと喜んで涼介をベッドに押し倒した。明日は医師会の大事な会合があるから、と涼介が釘を刺す間もなく。
手加減はなかった。
「オレ、まだいけますよ」
言葉の通り、拓海は平気そうだ。さっき散々、涼介を揺さぶった癖にけろりとしている。
「オレはもう、お手上げだな……今日は勘弁してくれ」
腹筋が、脚の付け根が、身体の入り口が……あちこちが痛んだ。
「涼介さん、体力ないの」拓海が笑った。
五歳の年の差が、涼介の余裕から拓海の余裕へと変わる年齢になった。
出会った頃はまだ高校生で、何にも知らない真っ白な幼い存在だっただけの拓海が、今ではすっかり涼介よりあらゆる面で上手になってしまった。強引に押したかと思えば体力にモノを言わせ、あっさりと引いて涼介の不安を誘ってまた押してくる。
すっかり、拓海のペースだ。
「加減、しろって言う間もなかったな」
冷たい缶を額に当てて涼介は苦笑いした。
「したつもりですよ?」
「嘘付けよ。オレの歳、知ってるだろ?」
もう無理は効かないんだよ、という涼介に、拓海はそうですか? と、すっとぼけた様子だった。
「これでもまだ手加減してる方ですよ」
影が近づいてくる。拓海の唇が、涼介の唇に軽く触れた。
「涼介さんのことはどんだけ欲しがっても、足りないんです」
幾つになってもね、と拓海の不埒な手が涼介の肌に這った。
「……こら、藤原っ」
涼介が咎める間もなく、また拓海のペースに流される。
「足りませんから」
拓海は言いながら、涼介の片足を肩に担ぎ上げた。
(終)
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