「出たのか」
すっかり服を着こんでソファにふんぞり返り、壁掛けの大型液晶テレビを見ながら文太が言った。
「……はい」
濡れた髪のまま、涼介は力なく返事をした。
服の中では、まだ中途半端に勃起したペニスが檻の中で不自由に疼いている。
じんじんとした鈍痛のような、燃え切らぬ性欲はじれったいほどで……早く家に帰って、なんとかしたいと願うばかりだ。
「涼介、肩揉んでくれるか」
「わかりました」
文太に言われて、覚束ない足取りでソファへと近づいた。


液晶テレビは、三流タレントがパチンコの新台をプレイするという、有料放送によくある番組だ。
三流タレントの大げさなリアクションに文太が笑う。
(……お父さん、何を考えているんだろう……)
時々、文太は酷く意地悪いことをする。
そんな時、涼介は文太の考えていることが分からなくなる。
そういう時、決まって自分は喘がされる。
どうしようもなくなって、いい年をして涙を流しながら乱れるしかないのだ。
今夜もまた、意地悪くされた。
それでも涼介が文太を嫌うことなど無い。嫌うことが無いと分かっているから、文太は涼介に意地の悪いことをするのだ。
ソファの後ろに立ち、文太の肩を揉み始めた。


ホテルの部屋の中は、有料放送の番組の音声だけが流れている。
(どうしよう……早く帰らせて欲しいって言うべきだろうか……)
肩を揉みながら、涼介は言い出すタイミングをうかがっていた。
身体の疼きがまだ止まらない。
股間は相変わらず痛いままだ。今夜はもうセックスはないと言っていたから、肩のマッサージを終えたら帰ってもいいだろう。
いつまでこれをつけていればいいのかは分からないが、今夜外して貰える様子は無いのだ。
それに……。
(こんなところでいたら……気がどうにかなりそうだ……)
文太の真後ろ、こんな近くにいることに耐えられない。文太の項や耳の後ろ、首筋が嫌でも目に入る。体温を感じる肩に触れている。
視線をずっと辿れば、組んだ脚の間……股間も目に付く。
文太の男の匂いが涼介の鼻腔を擽る。
いつもなら、この首筋に顔を埋められるのに。思い切り抱きついて、たくさん可愛がってもらえるのに。
あの股間の、デニムの奥にある文太自身で一杯愛してもらえるのに……なのに、今日は……と考えると、唇を噛むしかないのだ。
文太の匂いが余計に涼介を刺激する。
股間が、痛い。
身体が痺れそうだ。
早く、楽になりたい……解放されたい。
「ああ、もういいぞ」
文太が涼介の思考を読み取ったかのように言い、「あ……はい、」と涼介はマッサージを止めた。
「大分楽になった」
腕を上げたり肩を回したりして、文太は息ついた。
「……運転ばっかりしてたら、肩はどうしても凝りますから……」
「そうだな」
「あの、お父さん」
「何だ」
「……オレ、今夜はそろそろ……」
髪が濡れたままだが、それを乾かす時間も惜しい。
「帰るのか」
「ええ……」
ベッドに置いたままの上着を取ろうと、涼介はそちらを向いた。
「好きにしろよ」
文太からはそんな、冷たい科白が言い放たれた。



上着を着、濡れた髪を軽くタオルで拭って、涼介はテーブルの上のFCの鍵を取ろうとして……。
「あれ……」
確かに部屋に入ったとき、其処に置いたはずのFCのキーがなくなっている。
「どうした」
「鍵……が、テーブルに置いたはずなんですけど」
「鍵? これか?」
「え、」
文太が涼介の目の前に、小さな金属を差し出した。
「あ……」


FCの、否車の鍵ではなかった。
南京錠の……貞操帯の鍵だ。
「こいつも要るだろう?」
意地悪な笑みを、文太が唇の端に浮かべて。
「それくらいは耐えられるかと思ったんだけどな」
「おとうさ……」
「お前にゃ無理みたいだな」
文太の手が、涼介の肩を掴み、カーペットの上に押し倒した。


あっという間だった。
カーペットの上で、涼介は文太に衣服を剥ぎ取られた。
お父さん、と抗う間も……否、抗う理由などないのだが……裸ではなく、貞操帯だけをつけた格好にさせられた。
そして裏返され、四つん這いの獣の格好で、後ろから文太が押入ってきた。
「あ・ああああ……!!!」
涼介が目を見開いて、喉を見せて仰け反った。
熱い、硬い文太のペニスが、先ほどローションでぬめらせた孔へとたやすく入ってきたのだ。
「何でこんなにぬるぬるしてんだ」
「あ、あ……ッ、だ、って」
「だってじゃねえよ……風呂場でナニしてたんだよ」
問い詰めるというよりは、普段の会話の時のような穏やかな口調で、しかし文太の腰使いは激しく、荒っぽいものだった。
肉同士がぶつかる音にローションの水音が混ざり、それに涼介の悲鳴のような喘ぎが被さる。
涼介の肌は粟立ち、胸の二つの突起は硬く芯を持った。
「は、あ……ッ、あ、あ、そこ……お父さん、そこッ……」
涼介はその芯を持った突起を自分で摘まんで転がしながら、文太に強請った。
さっき自分で弄った場所を、文太のペニスが抉っている。欲しい快楽が得られ、涼介は夢中で貪った。
「悪さしてたんだろう、どうせ」
言われて、涼介はコクコクと頷いた。
彼の目尻からは生理的な涙が零れ、口をだらしなく開けて涎さえ垂らしている。
「お前の考えることくらい、お見通しなんだよ……」
その口に文太が指を突っ込む。タバコの味のする指が、口腔内を掻き混ぜる。涼介は夢中で指を舐め、吸った。
「ん、うっ、……」
「噛むなよ?」
いやらしい舌使いに、文太が苦笑する。
もう片方の文太の手が、檻ごと涼介のペニスに触れる。早く解放して欲しいと、はちきれそうになっている、哀れな涼介自身。
「あんまりこんなままじゃ……腐っちまうな」
苦笑した文太が、軽く引っ張った。


檻の南京錠を。


引き抜かれたと思ったら、今度は仰向けにされた。
ぱちんと確かに、金属の弾けるような音がして……涼介は解放されたことを知った。
己自身が、金属の檻から。
「ド淫乱なお前にゃ、ちょっと厳しかったな」
檻とベルトを涼介から引き抜き、文太が鼻先で笑った。
自由になった涼介のペニスはむくむくと頭を擡げる。
「お前が堪えてる顔はたまらねえんだけどよ……」
漸く戒めから解放された涼介のペニスを、文太の手が包みこんで扱いた。
やっと与えられた直接的な刺激に、涼介ははしたないほど声を上げ、腰を浮かせ、あっという間に白濁をしぶいた。



「……おはよ。アニキ、どうしたの?」
早朝四時、夜遊びから帰ってきた啓介は二階の洗面所の前で赤い顔をしている、パジャマ姿の涼介に声をかけた。
「遅かったな、啓介」
「悪ぃ。ケンタんちでちょっと寝てた。アニキ、なんか顔赤いぜ?」
「別に……早く寝ろ」
頬を赤く染めた涼介は、少し怒ったように足早に自室に消えた。
何だよ、変なのと啓介は首をかしげ、シャワーでも浴びようと一階に降りた。
「いい年して……」
部屋に戻ると、涼介はベッドに倒れこんだ。
こんな年にもなって、夢精してしまったのだ。慌てて下着を替え、洗い、洗濯機に突っ込んで二階に上がった所で啓介と出くわした。
(何て夢だ……)


文太に貞操帯を付けられて苛められる夢だった。
散々お預けをくらい、やっとそれを外して貰い、文太に扱かれてイくところで夢は終わった。
ハッと目覚めると、24にもなって下着の中で白濁をしぶいていた。
(でも……気持ちよかった……)
夢とは思えぬリアルさがあった。
現実には文太があんなものを買ってくるなんてありえない話だが……。
苛められてやっと解放される、その時は普段以上に乱れるし、感じてしまう。
(あんな夢見るなんて、ちょっと勉強しすぎかな……)
臨床実習が続いていて、少々疲れているのかもしれない。本来の起床時間までもう少し寝ようと、布団にきちんともぐりこんだ。
「あ、……メール……」
時間を確認しようと枕元の携帯を手にすると、メールが数件届いていた。
確認すると、今度の遠征でのバトルの相手チームから詳細な日時を提示してきたメール、大学の友人からのメルアド変更のメール、そして……。
「お父さん?」
珍しく、文太からメールが届いていた。


その内容を読んだ涼介は、思わず息を呑んだ。

『面白いものを買ったから、今夜来いよ』

(まさか……)
変えたばかりの下着の中で、若いペニスがむくりと勃ち上がった。

『お前が好きそうな、ちょっとした玩具だ』

あれは正夢だったのだろうか。
涼介は早くも息を荒くし、パジャマの下衣に手を突っ込み、勃起してきたペニスを握った。
今さっき見たばかりの夢をおかずに、自慰を始めた。


涼介がメールの『玩具』が何であるかを知るのは、その十五時間後のことだった。


檻の中 4




(終)





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