「馬鹿言うんじゃねえよっ! 大体なあ、オレはお前みたいな男みてーな女は好みじゃねえんだよっ!」
オレの服を握る藤原の手を解き、そっぽを向いた。
初めて会った時は、藤原のことをマジで男かと思ってた。今だって、女っぽくはないと思っている。
「オレはもっとこう、セクシーなのが……」
「じゃあ、これじゃダメですかッ!」
オレの言葉を遮る、藤原の科白。
「ばっ、おまっ……!」
パーカーの裾をまくろうとする藤原を慌てて抑えた――けど、ちょっと見えた――白い、レーシーな……藤原のイメージとは程遠いセクシーなブラと、それが守るけっこうでっかい胸……。
「や・やめろっつってんだよっ!」
「お願いだから……セックスして下さい……オレと……」
オレに縋ったまま、藤原が泣き崩れる。
お願いですから、と。
「お前っ……」


訳が分からない。どうして藤原が、急にオレにそんなことを言うのかも。何が目的なのか。
そもそものスタートが分からないから、リアクションはNOとしか言い様がない。
「……藤原……」


さっきまで、オレは花見の場所を探してただドライブしていただけだった。
それが今、どうして藤原にセックスして欲しいと縋られているのか。
(このままじゃ埒が明かねえな……)
面倒ごとは片付けるに限る。
「分かったよ。分かったから、……離れろよ。そんなくっつかれたら運転できやしねえだろ」
しゃくりあげる藤原をナビに押し戻して、さっき買ってホルダーに突っ込んだままの缶コーヒーを渡した。飲めよ、と。目を赤く腫らした藤原は頷いてそれを受け取り、タブを開けてごくごくとコーヒーを飲んだ。
なんか飲んだらちょっと落ち着くだろうか。
一気にコーヒーを飲み干すと、藤原は息ついた。

それを横目で見て、ちょっとホッとした。
「じゃあ、早くセックスして下さいっ」
藤原がまた言った。
「ぶっ……!」
何だよコイツ、全然わかってねえし!


「分かったよっ……やりゃあ、いいんだろうがっ」
ああ、もう、こうなりゃ仕方ねえ!
きっとコイツ、ホントにやらなきゃ納得しねえだろし。
きっと睨みつけて言うと、藤原はビクっと跳ねた。
「その代わり、泣き言無しだぜ?」
「……わ……わかってます……」
さっきまでの勢いは何処へやら。
藤原はちょっと、引いてた。



『桜夜 4』





(続)





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