部活の先輩を殴って、謹慎処分を喰らった。
処分が解けて、普通に登校出来るようになって一ヶ月。
担任がちょっと余所余所しくなって、クラスメイトの反応は、一部を除いて以前と変わりは無い。


その一部の中の一人にオレは誘われた。
結構大胆なことするんだな、オレはお前ってヤツは前から見込みがあると思ってたんだよ、と。

倉庫街の、古い二階建てのプレハブ。そこがオレが所属することになったチームの溜まり場だ。
放課後、オレは制服姿のままでそのプレハブに向かった。元は何かの会社の倉庫だったらしい。その会社は既に倒産し、今はこのチームが不法占拠している状態なのだそうだ。
プレハブの前には物騒な改造バイクや原付が乱雑に停められている。その片隅に自転車を停めた。
「こんにちは……」
立て付けの悪い引き戸を少し開けて中をのぞきながら挨拶すると、車座になって話している何人かの『先輩』たちがこちらを見る。
「おっ、来たか新入り」
「入れよ」
そろそろ都会では廃れつつあるという伝統的な不良スタイルの先輩方。特攻服、リーゼント、剃った眉に丸坊主、はっきり言って、見た目は怖い。話せば割と面白くて、結構面倒見はいい。
「はい……」
恐る恐る入り、後ろ手に戸を閉め、車座の少し後ろに座った。
謹慎処分を喰らった時に、部活はやめた。だから放課後が急に暇になっていた。オレを誘ったクラスメイトは口が上手いヤツで、断る理由を考える間もなく、ソイツのいる「チーム」の一員になることを口約束させられた。
まあ、最初に聞いていたよりは悪そうな集団じゃなくて、それだけはホッとした。
ヤクとかやってたらどうしようかと思ったけど、入ってみればそういうのは無くて……目指してるものが違うとかいう、よく分からない理由で……主にバイクを乗り回したり、特攻服着て、同じ様なチームと喧嘩したり騒いだり、その程度だった。
もっとも、ここは下部組織とやらで、上の組織はそういう、ヤクだの女を売り飛ばしたりだの、ヤバいことをやっているというのが、オレをここに引き込んだクラスメイトの談だ――本当か嘘かは分からない。
「でさ、ソイツがオレに言うわけよ。お前なんざやんのに5秒もいらねえ、ってな!」
リーダー格の先輩の、武勇伝の真っ最中だった。見た目こそ金髪パンチに前歯が欠けてピアスだらけ、怖いなりだ。
「リーダー、なんつったンすか?」
「そりゃ言うこた一つしかねぇだろ? ふざけんな、って!」
中指を立てて口を尖らせ語気を強めるリーダーに、皆がどよめく。オレも、わざとらしくどよめいてみた。
「その後はよ、オレがふざけんなっつった5秒後に、ソイツが血まみれになってたってわけよ」
膝を抱えて感心した振りをしながら、オレはなんとなく、これはフカシじゃないのかなと思っていた。


悪い集団に入って、まだ大したことはやっていなかった。
先輩のバイクの後ろに乗せてもらって、夜の道を爆走してパトカーに追いかけられたのが二回。
確かに、オレを誘ったクラスメイトの言ったとおり「スリル」はあったけど、心の底から楽しいかと聞かれると、ちょっと疑問符だ。
「お前、そろそろ特攻服揃える気はねぇか」
リーダーの話に適当に驚いていたら、隣に座った、面倒見のいい先輩が訊ねてきた。スキンヘッドに眉無しの癖に、結構いい人だった。
「え、あ……まだ、考えてなくて……」
「そうか。ま、急がせねえけど。あれも刺繍とか時間かかるしな。安いもんじゃねぇし。一着じゃ店もなかなか手ぇつけてくんねえからな。ツレがあるときがいいしなあ」
「はぁ……」
「まあそれまでにカネ貯めとけよ」
「はい……」
「オヤにゃ内緒だろ?」
「ええ、まあ」
オヤジにはこのチームにはいったことを、当然言ってはいない。
謹慎喰らって部活やめただけでも心配かけてるのに、その上不良グループに入ったなんていったら、オヤジはきっとオレを轢き殺すだろう。

何となく入ってしまったチーム。
そこで、オレは何となく過ごしていた。

「っしゃ、じゃあちょっと行ってくっか……おい、新入り」
「あ、はい」
リーダーが話し終えて立ち上がり、オレを指した。
「ちょっと着いて来いよ。いいトコ連れてってやっからよ」
「はあ」
「鞄、置いといていいぜ。また戻ってくるからな」
リーダーがダボダボのジャージの上着を羽織る。ナンバーツーの先輩が「今日、あの人来てるんすか?」とリーダーに聞いた。
「ああ。今日来てるらしいんだ。ヒロミとかもう行ってるらしいんだ」
「新入りにゃまだ早くないっすかね」
「いや、こういうことは早いほうがいいぜ」
何がおかしいのか、へへっと笑って、リーダーはオレを眼で呼んだ。頷いて、鞄を部屋の隅に置いてオレとリーダーはプレハブを出た。

リーダーの単車の後ろに乗せてもらって、同じ倉庫街の随分奥にある、大手の運送会社のターミナルへ着いた。十輪トラックが行きかう傍を通って、こんな所に何の用が……と思ったら、そのターミナルの裏手にある、潰れたコンビニが目的地だった。
「ここだよ」
「……はい」
促されて、リーダーと二人でその潰れたコンビニに入っていく。
ガラスは割れ、ガムテープで補修している。テナント募集の張り紙がもう色褪せて、剥がれ掛けていた。
「誰かいるんですね」
「まあな」
コンビニの駐車場には、いかにもな改造車が数台と、リーダーのようなバイクが数台と、あとは黄色いスポーツカーが停まっていた。
「系列のチームの連中だ。ウエの人らもいるからな、挨拶だけはちゃんとしとけ」
「……わかりました」
一体、何の為にオレはここに連れてこられたのか。まだ、オレにはわかっちゃいなかった。
コンビニに入ると、中は空っぽの棚があって、カウンターにはスプレーで落書きがされている。エロいチラシが束で置いてあったり、割れたDVDがあったり。
すえた匂いが鼻を突いて……顔をしかめた。
「こっちだ」
いわゆるバックヤードの扉をリーダーが指し、先にたって歩く。
オレは訳も分からず後をついた。
「……あ、」
話し声がする。

いや。違う。

話し声なんかじゃなかった。


リーダーがバックヤードの戸を開けた。
その向こうでは明りがついていた。
5,6人の、やっぱりリーダーのような不良の人らがいて……誰かを囲んでいた。
囲まれていたのは、金髪で、裸の男の人。
最初はリンチされているのかと思った。


違った。


「啓介さん、ほら口開けてくださいよ」
スキンヘッドにサングラスに顎鬚の、いかつい体格の人は優しい口調で、けど乱暴に「啓介さん」の顎を持ち上げる。
「ぁ……あ、ぅ」
啓介さんは短い金髪で、蕩けた表情の、でもとても綺麗な顔の人だった。だらしなく開いた口に、いかつい人の、真珠の入っているいびつな形のペニスが……それも、ギンギンに勃起しているヤツが、捻じ込まれる。
「ン、ぐぅ……ッ」
「ほら、噛まないでくださいよ。歯型つけるとオンナがうるせーんでね」
啓介さんの髪をつかんで、強引に喉の奥までペニスを咥え込ませていた。啓介さんはむせ返りながらも、それを必死に咥えていた。
後ろからは、チャラい茶髪の長髪の、どっちかっていうとガリガリのヤツが「尻、借りますよ」と、啓介さんの腰を抱えて、やっぱり勃起している、それほどのサイズじゃないペニスを尻の間に……入れていた。
「ああ、もう啓介さんサイコー……めっちゃ締まるし……オンナのガバガバのマンコとは違いますね」
笑いながらガリガリは啓介さんの尻でピストンを始めた。

オレはその空間で繰り広げられている光景を目にし、あっけにとられていた。
「おう、来たか」
入り口辺りに立っていた、特攻服姿の、立派なリーゼントの人がリーダーに声をかけた。リーダーは「新入り連れて来たんすよ」と、あっけにとられて突っ立っているオレを指した。
「まだ高校生か」
「ええ。入ったばっかりなんすけどね。見込みがありそうなんで……」
「童貞か」
「らしいっすよ」
「ま、童貞捨てるのには最高の相手だろうぜ、啓介さんは」
リーダーと立派なリーゼントの人は、どうやらリーゼントの方が格が上らしい。
オレは目をそらすことが出来なかった。
代わる代わる男たちにマワされる、啓介さんから。
啓介さんは必死になってスキンヘッドのペニスをしゃぶっていた。唾液塗れになりながら、手でも懸命に扱いていた。
ガリガリが腰を使いながら、啓介さんのペニスに手を回して扱き始めた。
啓介さんが嬌声を上げた。
「ん、ぁ゛、ああっ」
別の、剃りこみの入ったヤツが啓介さんの乳首を摘まんだ。
「あ、あ……あー……ッ、イく、ッ……、」
啓介さんがビクビクと身体を跳ねさせ、スキンヘッドの真珠ペニスを口から離した途端、ガリガリの手の中にあった啓介さんのペニスが白いものを吐き出した。
「はやすぎ……啓介さん」
ガリガリが笑った。
「あ、あっ、でもまだイける……」
「分かってますよ。まだやめませんよ」
振り返って言い訳をする啓介さんに、ガリガリが笑う。
「啓介さん、次オレっすよ」啓介さんの乳首を摘まんだ剃りこみが、スラックスの前を開けてペニスを出して誘う。
「こっちも……あ、おいしそ……」
「啓介さん、オレのがまだでしょ」
啓介さんの興味は剃りこみのペニスへと移り、自分から手を伸ばしていた。
置いてけぼりにされたスキンヘッドが苦笑してこちらをみた。
「お前、やってみろよ」
「え……」
「童貞なんだろ? あの人の尻で捨てさせてもらえよ」
「あ、え、」
「おう、カズ。新入り? いいぜ、代わってやるよ」
ガリガリがリーダーに目配せをして手招きする。リーダーに背中を押され、オレはガリガリのところに行った。ガリガリは啓介さんの中から、やっぱりガリガリのペニスを引き抜いた。啓介さんは剃りこみのペニスをしゃぶるのに夢中だ。
「この人はさ、こういうのが好きなんだよ」
むっとするような整髪剤のにおいをさせ、ガリガリはペニスをしゃぶる啓介さんを指した。
「……好き、なんですか」
「らしいね。今はいちおう引退したけど、前はこの組織の結構上でいた人でさ。男に掘られるの好きだから、今でも時々掘らせてくれるんだよね。女だと色々面倒だけど、啓介さんは上手いし後腐れも無いから、オレら相手してんだ。ほら、チンコ出せよ。ゴム被せてやるから」
「あ、は、はい」
言われるがままにペニスを出した。
オレのペニスは……勃起していた。
ガリガリは笑った。なんだ、勃ってるじゃねえか、見込みあるなお前、と。リーダーもリーゼントとタバコを吹かしながら笑った。
ガリガリがコンドームを付けてくれた。そして、「いけよ。入るから」と肩を叩かれた。
「啓介さん、オレのチンコ美味いっすか?」
剃りこみが啓介さんの頭を両手で包み、腰を前後させながら聞く。啓介さんは咥えたまま、頷く。
「何だ啓介さん、オレの咥えてオナってんすか。マジで好きっすよね」
さっきイッたばかりだというのに、啓介さんは剃りこみのペニスを咥えたままで自分のを扱いていた。
啓介さんはスキモノだからな、とリーダーが言った。
オレは啓介さんの後ろに回った。ガリガリがしていたように片手を腰に回して、もう片手で尻たぶを開いた。


男を抱くなんて、そんな趣味は無い筈だった。
なのに、今、オレは啓介さんという、まごう事なき男に興奮している。
そして抱きたいと、思っている。


「……すっげ……」
嫌悪でしかない筈の同性の裸、それも尻の穴を見て、オレは息を呑んだ。
蕩けたその穴は縦になっていて、ジェルか何かでぬらぬらとしていた。ヒクヒクしている。物欲しそうにしている。少し色づいたその穴が、誘っているように、見えた。
さっきまでガリガリのペニスが入っていたからか、蠢いている。
「おい、退いてやれよ。童貞捨てんだぜ」
スキンヘッドがリーダーにタバコを貰いながら言った。剃りこみが仕方ないな、と啓介さんを手放した。
「あ、」
ペニスが口元から離れ、啓介さんが縋ろうとする。
「啓介さん、後ろ」
剃りこみが啓介さんを後ろに向かせてくれた。
「誰……?」
頬を赤くして、もう快感に蕩けまくっている啓介さんは、今まさに啓介さんに入れようとしているオレを見て呟いた。
「好きに抱けよ、啓介さん乱暴にされるのが好きだからよ。啓介さん、コイツ今から啓介さんの尻で童貞捨てるんすよ。ちょっと、相手してやってくださいよ」
ガリガリがアドバイスと紹介をしてくれた。

ほらと言われ、オレは頷いて、啓介さんを押し倒して圧し掛かった。
啓介さんがひっ、と声を上げた。
仰向けになった啓介さんにキスをした。変な味がした。当たり前だ。他の男のペニスの味だ……でも、気にならなかった。


他の連中が見ている中で、オレは啓介さんを抱いた。


「おいおい、がっつき過ぎんなよ。入れる前に出ちまうぜ」
ガリガリが笑いながら言った。

「っ、は……」
啓介さん、名前だけしか知らない人に、オレはキスをした。
酸素を求めて離れていく唇を追いかけてまた、キス。
「ぁ、っや……」
汗ばんだ身体は細いけどごつごつしていて、当たり前だけど男の身体だ。ちっとも、やわらかくなんかない。なのにオレは今、猛烈に興奮している。
細い首筋に、顔を埋めてその辺りを舐めて、鎖骨、それから、剃りこみが弄っていた乳首に吸い付いた。
小さいそれに思い切り吸い付くと、啓介さんが声を裏返らせた。
「ッああ、っ、そこ……そこっ、」
ここ、ここがいいんだろうか。
もう片方も手で抓ってやると、啓介さんは更に喜んだ。
「啓介さん乳首好きッすよね」
「オレなんか自分で弄ってもちっともだけどな」
リーダー達が笑いあっている。
人に見られて、それも見ず知らずの男を抱いているというのに、恥ずかしさだとか躊躇いはどっかに吹っ飛んでいた。
今のオレはただ、啓介さんを抱きたい。
それだけの気持ちで動いていた。
「そこ、いいっ、もっと強くしろよっ」
言われて、もっと吸った。思い切り吸うと、啓介さんの両脚がオレの腰に巻きついてきた。
腹の辺りに、啓介さんの勃起したペニスが当たる。視線を下ろすと、オレと啓介さんの間で不自由そうに、でもガッチガチに勃ってる。先からはぬらぬらした先走りが垂れて、オレの服を汚していた。
何回この人イったんだろ。なのにまだ勃起するとか、皆がいうとおり、相当スキモノなのか。
乳首を構う手でそれを包みこむ。初めて触れる、自分以外の男のペニス。
感触がちょっと違うけどそれよりも、かなり堅くなっていることに驚いた。もう出そうじゃん、これ。
「あー……ッ、は……、チンポ、まだッ……まだだって……」
「うるせえ……」
黙ってろよ、と、その口をキスで塞いで、圧し掛かったまま啓介さんのペニスを思い切り扱いた。
「ふ・ッ、――ん、んんっ……んー……ッ!、……!!」
自分でもきついと思う速度と強さで扱いたら、啓介さんがキスから逃れようともがいた。それを許さずに続けていたら、オレの手に熱いものが掛かった。
――啓介さんは、オレの手コキでイった。
「良く出るよな、啓介さん。新入り、そろそろ入れてやれよ。啓介さんが気ィ飛ばしちまうぜ」
剃りこみが退けよと言い、オレを退かせた。身体を起こすと、下で啓介さんがはっはっ、と、犬が全力疾走した後みたいに荒い息をさせている。
「前からがいいか?」
聞かれて、はい、と特段考えずに頷いた。
「じゃあ啓介さん、足開いて……ほら、コイツ前から入れますよ」
啓介さんの細い太腿を、剃りこみが持って、広げる。
くたっとなった、ベタベタのペニスが両脚の真ん中にある。剃りこみは啓介さんの右手を右膝の裏に、左手を左膝の裏にやった。言われるままに、蕩けた啓介さんは自分の両脚を持ち上げて広げる。
さっきの、トロットロのケツの穴が見える。
「ほら入れろよ」
「……っ……、」
肩をトンと叩かれる。啓介さんが、はあはあ言いながら、ケツの穴をこっちに見せて脚を広げている。
「い、入れます……」
オレは再び啓介さんの上に圧し掛かり、その場所にペニスを宛がって……入れた。
「ッ、あ、」
「あっは……ッ、あ、熱ッ、こいつの熱いッ……」
啓介さんは喜んでいた。
なんだこれ……ぬるぬるなのにすんげえ締まるし……つるってしてて、その上蠢いて……オレのが、どんどん奥に入っていく……。
「啓介さん、ちゃんとケツ締めてやってくださいよ」
野次が飛ぶのも気にならない。
啓介さんに根元まで埋めると、オレは啓介さ
んにまた、キスをした。
「すげっ、啓介さんの……」
中の、締め付けが凄い。
「あ、ッう……ッ、動けよッ、お前っ」
入れて、満足していたら啓介さんが腰をもどかしそうに擦り付けてきた。ああそうだ、やるときって動かなきゃいけないんだっけ……でもこのままでも充分気持ちいい……けど、言われてゆっくりと腰を動かし始めた。そしたらまた気持ちいい。
中は狭くてきつくて、オレのペニスを搾ろうと必死に喰らいついてくる。
「どうですか啓介さん、童貞チンポ好きッしょ? 久し振りでしょ」
ガリガリがタバコを吹かしながら言った。啓介さんがこくりと頷く。リーゼントが「お前も初めては啓介さんだったよな」とリーダーに言っていた。
「お陰で女があんまり良く思えないんスよ。アイツ等面倒だし……」
リーダーの言葉に、オレは何となく納得していた。
はっ、はっと短い呼吸を繰り返しながら、啓介さんの中を抉るように突いた。突き上げる度に、脳天直撃の快感が来る。
男抱くのって正直どんなものなのかわかんなかったけど、……これ、すげーいいかも……。
さっき萎えていた啓介さんのチンポがまた起こってきた。どんだけ好きなんだよ、この人……。
「あっ、……く……ッ、出るっ」
童貞の持続力なんてたかが知れている。ものの数分もしないうちに、オレは啓介さんの中で、イった。



童貞喪失は、その日初めて会った、啓介さんという名前しか知らない年上の男の人だった。


「どうだよ、いいトコだったろ?」
バリバリと音を立てる単車が、来た道を戻る。
リーダーはオレを後ろに乗せて聞いてきた。はい、とリーダーの腰にしがみついたままでオレはうなずいた。風が、気持ちいい。
イってすぐに、リーダーがそろそろ時間だとオレを促した。余韻を楽しむ間もなく啓介さんから引き剥がされ、身形を整えさせられてコンビニを出た。
リーダーがオレの帰宅時間に気を使ってくれたようで、来る時はまだ明るかった外は、もう真っ暗だった。
「啓介さんはスキモノだからよ、気が向いたらまたしてくれるぜ。お前はしてもらわなかっただろうけど、”口”絶品だからな、あの人」
「……そうですか……」
綺麗な顔で、啓介さんは女に充分もてそうなのに。スキモノだからという理由で、男ばかりを相手にしているようだ。
プレハブに戻ると、「新入りが童貞捨ててきたぞ」とリーダーがネタ晴らしをし、先輩方が「これでお前も一人前だな!」と次々にハグやら握手やら、頭をぐしゃぐしゃにして祝ってくれた。……祝ってんのか、これ。


真っ暗な夜道を、チャリを漕いで帰路についた。
無灯火はダメだぞと、妙な所でルールに厳しいリーダーに言われ、ライトをつけて重いペダルをこいだ。
「……あ、」
うちに程近い場所で、今度は営業しているコンビニの明りの向こうに、立ち読みをする背の高い金髪が目に付いた。
「啓介さん」
コンビニの前に自転車を停めると、啓介さんが顔を上げてこちらを見た。
あ、って感じだった。


「お前、結構見込みあるぜ」
コンビニから出てきた啓介さんは、缶コーヒーを二本手にしていた。オレに1本投げて寄越し、言った。
「どうも」
「初めての割りにゃ持ったほうだぜ」
さっきは男のチンポ咥えてさんざん善がってた人は、普通にしゃべると普通にかっこよかった。
ニコッと笑うと、人懐っこい顔になる。
裸だったのが、ダメージジーンズに高そうなブーツに、ぴったりとしたTシャツという、モデルみたいな格好。
首筋に僅かに赤い痕が……あれ、たぶんオレが付けたヤツだ。
「ちょっと話そうぜ。さっきはまともに話できなかったからさ」
「はい……」
誘われるままに、自転車を置いて啓介さんについて行った。


近くの路上に、黄色いスポ車が停まっていた。
コンビニに停まっていた車の一台だ。
「……これ、啓介さんの車だったんですか」
「そうだよ。乗れよ」
助手席に乗れといわれて、オレは素直に乗った。
「お前、カズのとこの新入りなんだってな。アイツ頭悪いけどいいヤツだろ」
「ええ、まあ……」
「人纏めんの上手いしなあ。いいとこ入ったんじゃね?」
運転席に収まった啓介さんはコーヒーを飲んで、うめー、とか言ってる。頭悪そうなのは、アンタもだよとちょっと苦笑した。
「啓介さん、なんであんなことしてんですか?」
「ん?」
さっき、オレが童貞を捨てた人は、目の前でコーヒーの缶を手に、首をかしげている。
「あんな、って?」
「だから、セックス……ですよ」
何でさせてるんですか、と割と当たり前の疑問をぶつけてみると、啓介さんははハッと笑って、
「させてるんじゃなくて、してもらってんだよ。オレが」
「……してもらってる」
「そう。オレがしたいから」と、身も蓋もない答えを返してきた。
「男同士の方が気持ちいいし、アイツ等構ってくれるし、だからやってんだよ。女は面倒だし掘られる方が気持ちいいしさ……」
「……」
「なんだよ、その顔」
啓介さんが眉をひそめた。
「お、っ……」
気付いたら、啓介さんに抱きついていた。
「誰でもいいんですか、アンタ」
「はぁ……?」
「だから。掘ってくれるんなら、しゃぶらせてくれるんなら誰でもいいんですかって聞いてんです」
風呂にでも入ったのか、啓介さんからは石鹸の匂いがした。
「……あーまあ……そんなトコかもな。どうせオレなんてさ、一度ああいう道に入っちまったから親も見離してるし……まともな女も寄ってこねえしさ。気持ちいいなら誰でも、かな」
刹那的な快楽が欲しい、それだけでいいと、啓介さんは言った。
「なあ、新入り」
「……はい」
「お前、まさかまだしたいわけ?」
啓介さんは笑って、オレの頭をなでた。


「……そう、ですね」


さっきは色々茶々が入ったけど、今度はそう言うのが無しの方がいい、じっくりとアンタを抱きたいというと、啓介さんは「いいぜ」と、オレにキスをした。


啓介さんの車が走り出した。
どこに行くんですかと訊ねたら、「いいトコ」とだけ返事が返ってきて、そのまま半時間ほど。啓介さんが運転し、オレは助手席から啓介さんをじっと見ていた。
横顔も、運転する姿もホント男前だった。


――なんであんなことしてんだろ、この人……。


そんな疑問が心から消えなかった。
つい何時間か前までは、男のチンポを前にも後ろにも加えてよがっていた啓介さん。すげー気持ち良さそうに蕩けて、何回もイって、身体中で感じていた。
なんであんなこと――その気持ちを覆うように、オレの中にはもう一つの気持ちが生まれ始めていた。


「なにこれ、すげー……」
半時間後、啓介さんの車は高崎市内のハイソな住宅街にある、一軒の豪邸前に止まった。テレビに出てきそうな、見るからに金持ちの家って感じの、むちゃくちゃでっかい家だった。門があって、監視カメラがついていて、広い庭がある。
ボロい店兼用のオレんちとは大違いだ。
「ここ、って」
「ん? オレの家だけど」
「……マジですか?」
「ああ、マジだけど」
本気で驚いたら啓介さんがハハ、と笑った。
「そんな驚くことかよ。見たろ、この辺りは皆こんな家ばっかりだぜ。うちなんて小さい方だよ」
「……は……、」
確かに、ここ来る途中にあった家は豪邸ばっかりだった。
根っからの金持ちは嫌味がないって言うけど、ホントだな。
ほら降りろよ、と促され、車から降りた。


「……わ……」
中は外から想像するよりももっと豪華で、商店街にある古い豆腐屋のオレんちとは全く違っていた。
ふかふかの絨毯が広い廊下に敷き詰められていて、吹き抜けにはキラッキラのシャンデリアがぶら下がっている。
「来いよ、オレの部屋行こうぜ」
「あ、はい……」
啓介さんが先に立って歩き、その後ろを着いて行った。家の中をスリッパはいて歩くのもちょっと新鮮だった。
豪邸の中をきょろきょろ見回すオレに、啓介さんが「そんな珍しいもんか?」ってまた笑った。
「そりゃ、珍しいですよ」
「そっか」
「啓介」
低い、怒った様な声がして、二人で足を止めて振り返った。
「……アニキかよ」
ちょっと鬱陶しそうに顔をしかめて、啓介さんが頭を掻いた。オレたちが通り過ぎた部屋のドアが開いて、啓介さんとよく似た、けど啓介さんとは違って黒髪の男の人が、その声の通り怒ったように顔を出して、こちらを見て睨んでいた。
アニキ、ってことは啓介さんのアニキか……。
「友達か?」
啓介さんの”アニキ”は、オレをチラッと見て訊いた。
「ああ、そうだけど」
答えながら、啓介さんがオレの隣に立ち、オレの肩に手を置いた。
「オレのダチだけど」
「……友達と遊ぶのも大概にしておけ。大学も休みがちなようだが」
「わかってるよ。オレのはアニキの大学とは違うんだから……行こうぜ」
アニキとやらはお説教を言いたがっていたようだけど、啓介さんがオレを促し背中を向けた。
「啓介さん、いいんですか?」
「いいんだよ、いつものことなんだから」
啓介さんのアニキが不機嫌そうにドアを閉める音を背にした。
そこから階段を登って、廊下を少し進んだところに啓介さんの部屋があった。
「うっわ、きったね……」
「うるせーよ」
通された部屋は、豪邸の中なのにやたら散らかっていた。車のパーツとか雑誌とか服とかが散乱して、タバコと酒の匂いが充満していた。
「外と大違いだし……」
「全部必要なモンなんだよ、オレには。ほら、お前そこ座れよ」
皺寄ったベッドの隅を指されて仕方なくそこに腰を下ろすと、啓介さんは散らばった雑誌を拾いながら、「来るってわかってたらもうちょっと綺麗にするぜ、オレだって」と言い訳した。
「さっきの、啓介さんの……」
「ああ、アニキだけど」
「よく似てますね」
「まあな。……うちのアニキさ、あんなエラソーに言ってっけど、ああ見えて大学じゃ結構なことやってんだぜ」
拾った雑誌をガラステーブルにばん、と叩きつけるように置くと、喉奥で笑った啓介さんがオレの隣に腰を下ろした。
「結構なこと、って?」
啓介さんのお兄さんは、凄く真面目そうに見えた。
「アニキ、大学の教授連中に抱かれて、カネ貰ってんだぜ」
「……え、」
「ジジイみてーなトシの教授のチンポ咥えたり、ケツん中ににションベンされて喜んでんだぜ? そのくせオレに説教なんて、バカみてぇ……」
胸ポケットから出したタバコを咥えて、啓介さんが火をつけた。
悪い仲間連中から、あのお兄さんが抱かれている「映像」が回ってきたらしい。
「うちはさ、兄弟揃って男の方が好きなんだよ」
ちらりと此方を見てきた切れ長の目に、驚いた顔のオレが映っていた。


啓介さんの一服の後。
オレは啓介さんを抱いた。
さっきは外野が五月蠅くって、オレのしたいようには出来なかった。っつか、なんだか良く分からないうちに始まって、終わった。けど今度は違う。
啓介さんを抱きたいって言う明確な目的の元にオレはここにいる。啓介さんとオレしかいないこの部屋。ベッドの上。啓介さんはオレにしか抱かれない。
「……お前、っ」
着てるもんを全部脱がして、勿論オレも脱いで……細い首筋べろべろ舐めていたら、啓介さんが逃れようとくすぐったがった。
「ちょ、加減しろよ……」
「そんなの無理です」
アンタすごい魅力的ですから。
普段じゃ絶対誰にも言わない科白と共に、啓介さんの首筋を何回も嘗め回した。薄く肉付いた身体は、オレと同じ男の身体だ。ちっとも柔らかくなんかないのに、とてもそそられた。
その、切羽詰ったような喘ぎ声も、たまんない。
もう堅く尖っている胸の先っぽを摘まみ、そこに吸い付く。
「ひゃ、……ッ」
いきなり強く吸い付いたからか、啓介さんがビックリしたみたいに跳ねた。
あ、ここ、小さくて可愛いかも……強く吸うと芯が出来て硬くなる。乳首、オレのよりちょっと出っ張ってる気がする……色んな連中に抱かれてるからかな……。
「あ、は、ッ、胸ッ、強くすんなッ……」
踵がシーツを擦る音がする……あ、弱いんだなやっぱ、ここ。
「そんなこと言われたら、もっと強くしますよ」
「お前ッ性格悪……ッ」
いやいやをしながら、啓介さんは乱れた。
オレは啓介さんの胸を意地悪く攻めながら……まるで女にするみたいに……って、女を抱いたことは無いんだけど。女の胸みたいに揉んだり、吸ったりした。
「さっきはもっとって言ってましたよ」
「うるせぇし……」
硬く締まった脇腹とかも撫ぜて、腋の下も軽く舐めて。
あー……この人の身体……すげー美味しい。
息を弾ませて、感じてる顔が滅茶苦茶、可愛く思える。年上なのにな。


――オレ、もしかして男の方が好きなのか……?


「やぁっ、下も……ッ構えよっ、」
手を取られて股間に導かれる。ガチガチになったペニスは、同性だから分かる興奮度合いをその堅さにバロメーターとしてあらわしている。ああ、もうイきそうじゃん、啓介さん。
先っぽからトロトロしたのが溢れている。さっきだけでも何回もイってる筈なのに、よっぽど飢えてんのか、スキモノなのか。まだ出ようとしているなんて、啓介さんてすげぇ。
お望みどおりにそのペニスを強めに扱いてやると、息を弾ませて嬉しがる。
「あっ、は、っ、あ……あっ・ッ……!」
もっともっと、って腰を突き出してくねらせて……。
啓介さんとキスを交わしながらペニスを扱いてやって、さっきはそれでイかせたけど……今度は、そうしなかった。
「おま……ッ、待てよ、一回イってからっ……」
「待てませんから、オレ」
最後までねだる啓介さんを他所に、オレは早くこの人の中に入りたがった。やめろよ、イかせろよと喚く啓介さんをうつ伏せにして、腰を高く上げさせて、尻たぶを開く。やりこんだのか、縦に開いた、腫れたようなケツの穴がある。そこを狙って、一気に……。
「ッ、あ、ああっ、はぁ、んんっ……!」
獣みたいな格好で、後ろから一気に押入る。ズズ、って感じで、オレのペニスは啓介さんの一番奥まで……めり込んだ。
「お前ッ、堅すぎ……だろっ、」
「そんなの知りませんよ……アンタこそ中、気持ちよすぎますよ……」
締め付けて、うねって、オレのをもっともっと奥へと導こうとしている、啓介さんの中。オレのが堅すぎるとか言われたって。
「あ、あっ、そんな……根っこまで入れんなっ……おかしくなるッ……」
逃れようと這い上がりかけた啓介さんの肩を押さえつける。
「何がおかしくなるですか……アンタ充分おかしいですよっ。自分より格下の男にあんなに簡単に脚開いてチンポ咥えて……今だって、」

名前も知らないオレを家に入れて、こうやって抱かれている。
これがおかしくないなら、一体なんだって言うんだ。
「だから、オレがっ……」
「ッひッ・!」
思い切り腰を前後させると、啓介さんの声が感じているそれから、悲鳴の様になった。
「オレが、」

ケツの穴は案外と小さい。そこに、こんな太い……って、自分で言うのもあれだけど……モノをぶちこんで、体重掛けて思いっきり打ち付ける。
啓介さんはオレの下で、喘ぎながら、泣いていた。
「あぁッ、……やめろっ……んあ、は……ぁあふぅ……ん、っ、ぃっ……!」
「やめろって、すんげー感じてるくせに……」
「うるせ、ぇっ……ぁぁ……出るッ、」
後ろからペニス扱いてやって二、三度イかせて、乳首も抓ってやったら中がぎゅって締まった。
そうやってこの人を、散々、オレの好きなように抱いた。
オレと啓介さんはオレのペニスで繋がっている。そう考えながらセックスするだけで、アドレナリンがドバドバ出てくるのが分かった。

ああ、やばい、オレ、すげえ気持ちいい。
啓介さんとずっとこうしていたい。
この人のケツの穴にこうやってペニスぶっ挿してるだけで一日が終わればいいのに。


そんな考えが頭の中を過ぎっていくくらい……気持ちよかった。
啓介さんの中に、五、六回は出したと思う。最後の方はオレ自身が出した精液でペニスが滑って出てきた位だ。普段のオナニーとかオレあんまりやらない方なんだけど、今日はヤバイくらい、した。
”絶品”の口も、勿論してもらった。



「……オレも下さい」
「あ?」
朝方になって、ベッドにうつぶせて並んで寝た。
事後の気だるい空気の中、薄闇に灯る啓介さんのタバコに手を伸ばしたら、ひと吸いしてオレに寄越してくれた。
「吸えんのかよ」
「オヤジが吸ってんで……時々拝借してます」
「お前、済ました顔して結構やんのな」
あんなにガツガツやられて腰いてえよ、と啓介さんが笑った。
「あの……オレ、もう帰ります」
「ああ、もう朝だもんな。途中まで送ってくぜ。ガッコちゃんといってんだろ、お前」
「はい。家の手伝いやんないといけないんで、そろそろその時間だから……」
「へぇ、殊勝だな」
深く吸って吐き出すと、啓介さんが煙の向こうで笑っているのが見えた。
「ね、啓介さん」
「あん?」
「啓介さんは、誰か一人に相手を決めたりはしないんですか?」
「……オレ?」
オレの突きつけた質問に、啓介さんは少し考えていた。
「そうだな……攫われでもしたら、そいつのモンになってもいいと思うけど……ま、今は相手決めないであれこれやってるのが楽しいってカンジかな」
自虐的に薄く笑うその横顔が、酷く扇情的だった。
そうですか、と言いながら、オレのペニスは硬く勃起していた。本当はすぐにでも啓介さんに入れたくて仕方なかった。


途中まで送ってもらって、じゃあな、と別れて。
黄色いスポーツカーはすかした音を立てながら、啓介さんとともに去っていった。
鮮烈な記憶を、体験を、オレにくれた人は、オレの中で明らかに特別な存在になっていた。
啓介さんはきっと、そんなこと微塵も知らないだろうけど。
「攫われでもしたら、か――……」



それから一週間と少しがたった。
普通に学校に通って、放課後にチームに寄ることを繰り返した。
リーダーのフカシた話に相槌を打って、先輩たちと夜の街を、バイクの後ろに跨って暴走した。
追って来るパトカーのサイレンと赤いランプ。
落ちたら即大怪我のスピードで蛇行しながら走るバイクも、捕まったら退学になるだろうパトカーも、最初の時ほどスリリングには思えなかった。


あの日から十日後。
放課後、チームに向かう途中、オレはふと、あのコンビニに行ってみた。


胸騒ぎのようなものがあったからだ。


「あ……やっぱり……」


コンビニの前には、いかにもな改造車や、見知ったバイクが停まっていて、その奥に黄色い、あの啓介さんのスポーツカーがあった。
今日、啓介さんはここに来ているんだ。
たまにしか来ないと、リーダーも、啓介さん自身も言っていた。
中に入ると、あの日と同じく、奥のバックヤードから灯りが漏れている。
声も聞こえる。



「なんだ、お前カズんとこの……」
ノックも無しにドアを開けると、あの日いたスキンヘッドが入り口の傍に立ってて、振り返って目が合った。
他には知らない顔が幾つか。ガリガリもいた。
そしてその足元には、裸の啓介さんがいて、ガリガリのペニスをおいしそうに頬張ってフェラチオしていた。
「おいおい、カズんとこの新入りがなんの……」


ゴッ、と鈍い音と共に、拳に痛みが走った。
「てめえっ……!」
入り口の脇にいた一人を、オレは殴った。
「何しやがんだテメー!」
「うるせえよ」
その隣にいた奴は、蹴った。



そいつをやっちまえ、スキンヘッドが言うと、中にいた連中が一斉に殴りかかってきた。
オレはそれに応戦した。
喧嘩の仕方なんかしらない。ただ、無我夢中だった。
最初に殴ったヤツの足元にあった鉄パイプを手に、叫びながら思い切り暴れた。
面白いように連中の頭に、腰に、腹に命中した。連中はすぐに蹲って、苦しそうに呻き始めた。スキンヘッドは膝を突いて、がはっ、となんか吐いた。
「ちょ、啓介さん離れて……おいってめえ……!」
最後に残った、ペニスを仕舞おうとするガリガリにも、勿論、鉄パイプをくれてやった。
膝の下を狙ったら、女みたいに悲鳴を上げて痛がってた。
「行きましょう、啓介さん……」
散らばっている啓介さんの服を拾って、裸のままで座り込んでいる啓介さんの腕を取った。


「てめえッ! 承知しねぇぞこの野郎ッッ!」
後ろでスキンヘッドが蹲ったまま叫んでいるのを他所に、オレと啓介さんははバックヤードを、コンビニを出た。


黄色いスポーツカーはオレが運転した。
そのまま、オレと、裸の啓介さんを乗せたスポーツカーは唸りを上げて走り出した。

「……何のつもりだよ、一体」
車は倉庫街を抜けた。
漸く、助手席の啓介さんが口を開いた。
「服、着た方がいいですよ。露出で捕まりますよ」
「お前こそ学ラン脱げよ。無免だろーがっ……ほら、手ェ血ぃついてっし」
「攫われでもしたら一人のものになるって言ったの、啓介さんでしょ」
「あ? ……ああ、こないだ確かにそう言ったけど……お前もしかして、」
「そうですよ。アンタがそう言ったから、やったまでです。……啓介さんこれ、クラッチ深いです
「……バカじゃねーのお前……」
啓介さんは膝の上に乗せたシャツを手に、ハハハ、と笑った。
「お前って、大胆なヤツだよなぁ……ほんっと。カズも言ってたけど、なんかでっかいことやらかすと思ってたんだよなあ」
「大胆なんじゃなくて、啓介さんがそうさせるんですよ」
「そりゃどうも……なあ、お前さ、この後どうするんだよ」
「……決めてません」
「何も?」
「ええ」


ただ、啓介さんを攫って自分のものにしたかった……それだけであんなことをしたといったら、啓介さんは肩を揺らして笑った。


「なんつーことすんだよお前は……もうあそこにも何処にも戻れねえぜ?」
「構いませんよ。オレは元々惰性でいたようなモンですから……」
「あっそ……」
「啓介さん、」
「ん?」
「オレのものに、なってくれますか?」
改めて聞くと、啓介さんは小さく笑って、
「そうするしかねえだろ?」
それはイエスの返事だった。
「じゃあ、逃げますか」
「何処までだよ」
「逃げられるとこまで……オレと、逃げてください。啓介さん」
「……逃げてください、か。なんか昭和だよな、お前って……。それよりお前さ、名前なんて言うんだっけ?」
目の前に高速の入り口を示す緑色の表示が見えてきた。オレはその方にウインカーを上げ、そして、言った。
「拓海です……藤原、拓海」



「嫌いじゃねぇけどな、藤原みたいなヤツ……」
啓介さんが、オレの頬にキスをしてくれた。
「攫うんだったら、最後まで責任持てよな」
「勿論ですよ」
今度は、オレの方から啓介さんの唇にキスをした。

啓介さんの黄色いスポーツカーで、オレと啓介さんは、宛ての無い逃亡の旅に出た。



逃亡者




(終)





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