考察タイム

店を終えて、風呂に入り晩酌をちびちびやりながら、テレビを見る。
文太にとっての至福のひと時だ。
プロ野球はシーズン開幕までまだ日にちがあり、待ち遠しい。
この時期は番組改編とやらで特番だらけだ。
面白い番組にあたればいいが、そうでなければ長々とつまらないものをずっと見る羽目になるからいやなものだ。レンタルショップまで足を伸ばすには酒をやっているから車はご法度、歩くのも面倒で、結局つまらない番組を我慢してずっと見る羽目になる。
今日はどうやら「はずれ」の日のようだ。
若い男性アイドルたちがふざけあってゲームをし、負ければ罰ゲームがまっている。
(つまらねえなあ……)ファンなら楽しめるのだろうが、文太位の年になるとどれもこれも同じ顔に見えるのだ。名前も覚えられないし歌も一緒に聞こえる。
チャンネルを変えてみても見たことのないドラマか、歌番組か、バラエティーかで変わりはない。
結局もとのチャンネルに戻す。

ジャージにヘルメットを被っていても、男前に分類されるアイドルたちはちっともださくない。観客の若い女性たちのきゃあきゃあ言う声を浴びながらゲームをし、負けると服を脱がされる。
『もう、オレ26にもなってどうしてこんなのやってんだよ!』
負けが続いて身包みはがされた一人のアイドルが悔しさに叫んでしゃがみこむと、観客がまたどっと沸いた。
(26か……)
涼介と同い年か、と文太はビールの缶に口を当てたままでふと思った。
今頃、大学病院で夜勤で働いているだろう彼と、テレビの中のあのアイドルは同い年か、と思うと、なんだか不思議な気がした。
身包みをはがされ、上半身裸になったアイドルは『寒い!』と取られたジャージを奪い返そうとしている。その身体は細いが、歌って踊る職業柄ゆえか、筋肉もちゃんとついている。
アウトドア派なようで、こんがりといい具合に日焼けもしていて健康的だ。
(アイツのほうが色白で細いな……)
もともと涼介は細身だ。その上にあまり食べない、というより忙しい生活のせいで食事が不規則なものだから、医者のくせに病人のように細い。
(あれくらいは筋肉が欲しいもんだな、じゃないと……)

抱き心地が悪い。

「……オヤジ、何真剣に見てんだよ」
頭の上から降ってきた声に振り仰ぐと、帰省中の拓海が缶ビールを手に不思議そうに文太を見下ろしていた。
「なんだ、戻ってたのか」
「うん、今帰った」
さっきまで友達と夕飯、と外に出ていたのだ。
「ただいまって言ったのにオヤジ真剣にテレビ見てんだもん、返事ねーしさ」
「……言ったのか、そりゃ悪かったな」
「ナニ見てんのかと思ったらこれかよ。そんな真剣に見るような番組かよ。変えるぜ?」
「ん、ああ……」
拓海がリモコンを取り、違う局のドラマに変えた。


(別にホモってわけじゃねえんだけどなー……)
途中から見てもちっとも判らないドラマを眺めながら、文太は心の中で言い訳をする。
別に男なら誰でもというわけではない。というか、男が好きなわけではない。
涼介だから、なのだが。
ただ、欲がある。
もう少し涼介の体に肉が欲しい。
そう、さっきテレビに出ていた、涼介と同い年のあのアイドルのように。
健康的に焼けていれば、なおよしだ。
(じゃねーと、あんまり無茶もできねえしな……)
ここのところ忙しいことが重なり、涼介とはライトなまぐわいだけで。
細い彼にあまりハードなこともしづらいのだ。
けれどそれで満足できるほど、文太はまだ枯れてはいないのだ。
「拓海」
「ん? なに」
「明日の晩、焼肉食うか」
「えー、オレ今日焼肉だったのにさー」
「肉なら毎日続いても飽きねぇだろ、文句言うな」
「そりゃ好きだけどさ、ケチなオヤジが焼肉とか急に言うの気持ち悪い」
「うるせえよ、最近売り上げがいいんだよ。食わせてやるんだからありがたく食え」
拓海の頭を空の缶で小突くと、カレンダーに目をやった。
明日は夜勤明けの涼介が遊びに来ることになっているからだ。

(終)
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