『いつものトコだ』
受話器の向こうの文太の声が、心なしか優しかった。
いつものトコだ、もう先に入っている、だから来いよと言われて、涼介は二度返事、すぐさまその場所へ向かった。

繁華街のはずれにある、古いラブホテル。男同士も断られない、待ち合わせるには都合のいい場所だ。
いつもの部屋に入って、テレビを見ていた文太の隣に座って話をして――いつもと同じだった。ここまでは。
『そうだ、いいモン買ってきたんだ』
火の付いたタバコの先で文太が指したのは、ベッドの上にある紙袋。いいものと言われ、涼介はわくわくしながらその袋を覗き込んだ。
好物の甘いものかもしれないという期待を抱いて。

「……こう、ですか……」
5分の後、涼介は頬を赤く染めて、文太の前に立っていた。服を全て脱いで、代わりに文太の命令どおり、紙袋の中に入っていたものだけを身につけて。
「ああ、そんなもんだろ……いいんじゃねえか」
タバコの煙に目をしばたつかせながら、文太はソファに座ったまま、頷いた。
涼介は戒められていた。
紙袋の中には、いったいどこで手に入れてきたのか、男性用の貞操帯が入っていた。
涼介のペニスは、金属製の貞操帯の中にあり、さながら檻のようだ。しっかりと南京錠で施錠され、その鍵は当然、文太のポケットに入っている。
「痛いか?」
「いえ……」
訊ねられて、首を横に振った。
痛くはなかった。ただ、――。
「そのままションベンも出来るし風呂にも入れるからな。ただ、ションベンは立ったままじゃ無理だな」
「……はい」

(こんな……)
哀れ、檻の中に閉じ込められた自身を見下ろし、涼介は唇を噛んだ。男性用の貞操帯。SMグッズに分類される。
こういうものを、アダルトショップのサイトで見たことも、それを装着した画像も見た。どういう効果があるのかも知っている。
しかしそれを自分が嵌めるとは、ましてや文太が手に入れて自分に嵌めろと命じるとは、考えたこともなかった。
「最近お前ちょっと激しいからな。こんなもんでも付けさせねえと、お預けできねぇだろ」
手を伸ばして、文太は檻に触れた。
「あ、っ」
檻を潜った文太の指が、涼介のペニスを撫ぜた。大好きな人からの刺激に、若いペニスは勃ちあがろうとした。が、檻がそれを阻み、軽い痛みが走りすぐに萎えた。
「ッ……」
「オレもトシだしな。あんまり腰振って仕事に差し支えると困るんだよ」
豆腐屋は力仕事だ。
「だからこれ嵌めて我慢しとけってんだ」
脇に置いた灰皿でタバコをもみ消し、立ち上がった文太は風呂、とだけ言って、涼介に背中を向けた。
「お父さん」
「外して欲しかったら、そうだな……」
すりガラスの浴室のドアに手を掛け、文太は暫く考えていた。
そして振り返って、

「外させたくなるようなコトをしてみろよ」


意地悪な笑みを浮かべて、ドアの向こうへと消えた。


「……そんなの……」
水音と、ご機嫌な鼻歌を聴きながら涼介は哀れな己のペニスを見下ろした。檻の中に囚われたペニスは、萎えて、怯えているようだ。南京錠は小さいながらも頑丈で、引っ張ってもびくともしない。腰のベルトも太い皮製だ。
「外させたくなるようなこと……か……」
それはどんな……と、檻を見つめながら考える。
檻から解放されるためには、いったい、どうすれば。

2

檻の中 1









home