家とは違う風呂は広く、心地良い。
幾ら場末の、男同士でも断られない類のホテルとはいえ、流石に文太の家の風呂よりははるかにましな造りをしている。
脚を伸ばして肩まで浸かれる。
鼻歌混じりにすりガラスの向こうを見遣れば、戸惑う涼介の影がある。
どうしていいのか分からないのだ。
(……――まあ、普通はそうだろう……)
あんな戒めをされて、どう振舞えばいいのかを知っている筈などないのだ。
不恰好きわまりない貞操帯で制限された涼介が、果たしてそれをどうやって文太に外させるか。
自他共に認める『頭のいい』涼介がどういうことを考えつくだろうか。


彼がどんな手を考えても、結果は同じことなのだが。


風呂を楽しんでいる文太の鼻歌を聴きながら、涼介は肩を落した。
あんなことを言って、きっと今夜はこのままなのだ。セックスもないだろうし、文太は本当に休憩だけをして帰るつもりなのだ。
自分はこれをつけたまま帰宅を余儀なくされ、暫くは大学もこの格好のまま……。
そう考えると、身震いがした。
仕方なく、ベッドの上に散らかっている、貞操帯が入っていた紙袋や自分の下着を片付けることにした。
破ったビニール袋をまとめ、塵箱に入れた。
このままでいるより他はない、文太に前言撤回はないから――脱いだ下着をもう一度穿いた。
檻の嵩だけ、股間が不自然に盛り上がっている。
「う……、」
可哀想に、檻の中にある涼介自身はあんなにも縮こまってしまったというのに。
続けて、デニムも穿いた。少し前がきついしやはり盛り上がっている。が、ゆったりしたアウターで股間を隠せば問題はないだろう。
「……ん、……何だ」
畳もうとした紙袋から、はらりと落ちた紙片を手に取った。
「あ……っ」
それはアダルトショップのチラシだ。
様々な男性用の貞操帯や拘束具の小さな写真がずらりと並んでいる。男性の下半身を模した人形が身につけたそれらは、涼介が今付けさせられているものよりも際どいもの、ハードなものも多い。
睾丸に取り付けるタイプの拘束具、もとい拷問具に近いものもある。
この器具を取り付けられると立って歩行することは困難であり、四つんばいになるしかない――という説明文にぞくぞくと、涼介の背筋を走るものがある。
無論、頭の中で無意識に、それを装着させられた自分を想像してしまっているのだ。
(いやだ、オレは何を……っ)
はっとしたが遅く、窮屈な檻の中で萎えていた自身がむくむくと勃起してきた。が、当然檻がそれ以上の勃起を許さず、痛みと共に阻止するのだ。
「っ、あ、……や、なんでっ……」
しかし、さっきとは違う。どうしてだろう、涼介自身は萎えない。痛みを承知で、まだ硬くなろうとしている。
「……ふっ……、」
萎えろ、と頭で命じても、なかなか萎えない。焦れば焦るほどに勃起する。
(どうして……なんで、オレはこんな……!)
涼介はベットに蹲って、痛みを堪えた。
ちらりとさっきのチラシに目をやる。
(……こんなの……こんなもので……)
恐らくはこの貞操帯を買った時に、店が袋に一緒に入れたのだろう。
金属製のプラグ、アイマスク、ボールギャグ、貞操帯……小さな写真の数々に、涼介は痛みを堪えながら、息を呑んだ。
頭の中には、嫌でも浮かんでしまうのだ。
文太によってそれらで酷いことをされて、悦んでいる自分が。


ドアを開け閉めする音がした。
はっとして顔を上げると、腰にタオルを巻いた文太が傍に立っていた。
「苦しそうだな」
濡れた髪から水滴を滴らせ、文太はニヤリと笑った。
「いいオカズがあったもんだ」
涼介が知らずのうちに握っているチラシに目を落して。
あ、と涼介が気付いた時にはもう遅かった。


檻の中 2










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