「お、お父さん……」
違うんです、と言い訳をしようと起き上がりかけた涼介を、文太が押し返し、ベッドに再び仰臥させられた。
「あ……」
「何こんなもん見てんだ……これじゃ、仕置きにも戒めにもならねえな」
チラシを拾い上げると、文太は涼介の顔と、彼の、貞操帯のせいで不自然に膨らんだデニムの股間を見比べた。
「……風呂、行ってこい」
チラシをベッドに置くとそう言い、文太は背を向けた。
「……はい……」
涼介は力なく頷いた。


手が震える。
バスルームで涼介はもたもたと服を脱いでいた。
漸く引き摺り下ろしたデニムと下着の下には檻が相変わらずある。
檻の中で、まだペニスは勃起していて、痛い。
こういうものをつけると、勃起するとなかなか収まらないと聞いたことがある。マゾヒストは拘束されていることに無上の喜びを感じるからなのだ、と。
自分も、マゾヒストだ。文太に苛められることが無上の喜びだ、だから……。
「どうして収まらない……」
涼介は舌打ちした。痛みがあるのに、勃起は収まらない。
それどころか、堅さは増していく。 さっき見たチラシが頭から離れない。あのチラシに載っていた器具で、更なる戒めをされる妄想が次々と沸いてくるのだ。
(ダメだ、もう……)
涼介は唇を噛んだ。


部屋の方からは有料放送らしいテレビの音がする。文太が見ているようだ。
濡れた洗い場で、シャワーのコックを捻ると、熱い湯が涼介に降りかかる。心地良い温度のそれは涼介の肌に弾かれ、滑り、排水溝に吸い込まれていく。
涼介はちらりと部屋の方を見た。
幸いなことに、擦りガラスだ。お互い、中のことはわからない。
「……」
涼介ははぁ、と深く息つくと、使いきりのローションの封を切り、それを指にとった。そしてその指を後孔にそっと差し入れた。
「ッ……、」
まず抵抗があり、指をぐいとやや強引に進めると、少し解れて飲み込まれる。
「ア、あ……」
つい出そうになる声を殺し、涼介は眉根を寄せた。
いつもは文太が探ってくれる己の中、涼介の指はある一点を探していた。
「ん……ん、っ……ぅ……」
ペニスをしごけないのなら……せめて、自分で中を探ってそれで達すればこの勃起は収まる、涼介はそう踏んだ。
「は、っ」
シャワーを浴びながら、涼介はタイルの壁に手を付き、後孔を自分で穿った。快感が更に増大し、ペニスが檻の中で更に堅くなる。
ペニスが痛い、しかし後孔は気持ちいい。
「あ、ああ……」
最近ずっと文太が穿ってくれていたから、自分でこんなことをするのは久し振りだ。いや、それが今日、こうしてこれを付けさせられる羽目になった原因なのだが。
涼介の指が、探していた一点を掠めた。
「……あうッ……!」
思わず、大きな声が出、ハッとした。
恐る恐る首を扉の方に向けると、テレビを見て文太が笑っている声がする。
(……聞こえていないか……)


結局、目論見は不発のままで終わってしまった。

幾ら後孔を弄って前立腺を刺激しても、勃起をあれ以上許されぬペニスの痛みと、バスルームに長居できぬ焦りで、快楽の頂点がやってこなかったのだ。
家に帰れば、それなりのものがある。
振動する玩具も、効能が確かな媚薬に分類されるクリームも……それらを使えば、きっとこの不自由な格好でもなんとか射精までこぎつけられる筈だ。
ここで射精することを諦めて、涼介は身体を清めてバスルームから出た。


檻の中 3




(続)





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