「おー、結構咲いてんじゃん……」
ギアはロー、FDはゆっくりと坂道を登る。オレは車の外に広がる光景にステアを握ったまま思わずため息を漏らした。
なだからな坂道の両側は桜並木が延々と続いている。まだ七部咲きといったところか。桜は道の両側からまるでアーチの様に伸びている。
きぱっと真っ黒い夜空を覆っている。これが満開になったら、本当に美しいだろう。

大学のツレたちと計画している花見の場所を探すため、オレは軽く赤城を走った後、市街地にFDを走らせていた。
おふくろから、S市にいい穴場があってまだあまり知られていないっていう話を聞いて来てみたんだけど、これが大正解だった。
「あ、あそこで出来るな……」
小さい公園が坂道の途中にある。提灯がぶら下がっていて、近所の人らしいおっさんやおばさんらが花見をやっている。カラオケセットまで持ち込んで、大騒ぎだ。
「へえ、こりゃいいや」
高橋、花見の場所見つけといてくれよ! と、欠席裁判のように係りを押し付けられた。もうすぐ始まる、アニキが率いる県外遠征チームのことにかかりきりで、大学のツレの方をおざなりにしていたら、すぐにこれだ。
まあ、遠征が始まったらツレたちともなかなか遊べなくなるから、そのくらいやはってもいいんだけど。
有名どころは朝から場所取りしなきゃいけないくらい混む。去年はそうだった。皆で交替して場所を確保して、始まる頃にはヘトヘトだった。だから今年もかと覚悟していたけど、ここなら朝から場所をとらなくても大丈夫だろう。
(おふくろもたまにはいいこと言うよなー……普段は口うるさいけど)
いい場所を教えてもらったお礼に、帰りにおふくろが好きなケーキでも買って帰るかな……いや、最近ダイエットって言ってたよな……なんて思っていたら、丁度いい具合に坂道を登りきって、平地になって、桜並木も終わりに近づいた。
少し行くとコンビニが見える。あの駐車場で切り返して帰るかな……とか考えていた。

「……え、……?」

ギアをセカンドに入れようとして、驚いた。
桜並木の丁度終わりの木の下。
彼女は、いた。
茶色いショートヘアーが項垂れていた。よく着ているパーカーの紐が風に靡いていた。
「……藤原じゃねえか」

藤原が、桜の木の下立っていた。

――泣いていた。




『桜夜 1』





(続)





2