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「はぁ? 何言ってんだ!」
ハザードの規則正しい動作音に、オレの素っ頓狂な声が混じる。
いきなりすぎる科白だ。
だって、オレ達は恋人どころか、ただの同じチームメイトだ。幾ら男と女って言う性別の違いはあっても、だ。
「抱いて、っておま……」
「だから……セックス、して下さいってことです」
充血した目がオレを映したまま、セックス、なんてコイツには……地味なコイツにはおよそ不似合いな単語を紡ぎだす。
細い指が、オレの服を握っている。
その指を見て、改めて思う。
あ、そうだった……こいつ、女なんだよな、って……いや、大事なのはそういうことじゃなくって、だな。
「……だーかーらー、なんでセックスなんだよっ」
「ダメですか? オレじゃ、ダメなんですか?」
後ろから来た車が、クラクションを鳴らしながら追い抜いていった。
「あ、やべ……」
道のど真ん中でハザードをつけて止まっていることに気付き、慌てて車を端に寄せた。
「だから、なんでいきなりセックスって……っつか、何であんなトコで泣いてたんだよ、そもそも」
「それは……その、」
問い詰めると、藤原は答えに窮した。
「色々、理由があって……」
「理由って、何だよ」
「……それは……」
問い詰めれば問い詰めるほど、藤原はトーンダウンしていく。
ああ、わけわかんねぇ。
あんなトコで泣いていて、そりゃ訳ありじゃないなんてことはないだろうけど……それでも、だ……。
「抱くとか抱かないとか、そういうこと以前にまず泣いてた理由を聞きたいんだよ、オレは」
知りたいことははっきりさせたいタイプだ。隠し事とか、そういうのは大嫌いなたちだから。
「け……啓介さんがオレとセックスしてくれたら……理由、話しますけど……」
藤原は袖で目元を拭って、今度はそんなことを言ってきた。
――おいおいおい。
そう来るかよ……。
『桜夜 3』
(続)
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